東北大学大学院医学系研究科の有馬隆博教授のグループは、九州大学生体防御医学研究所の佐々木裕之教授のグループと共同で、ヒトの精子、卵子が受精卵を経て胎盤へと分化する過程で、DNAメチル化がどのように変化するのかを明らかにした。
胎盤と胎児は一つの受精卵に由来しており、同じゲノムDNA情報を持ちながらも、全く異なった働きをする。それを可能にしているメカニズムが、DNAメチル化などのエピジェネティックな修飾だ。DNAメチル化の異常は、流産、子どもの発育異常、生活習慣病、がんなど様々なヒトの病気に繋がることが知られる。
これまでマウスなどの実験動物を用いた研究では、DNAメチル化が受精卵でほぼ完全にリセットされることが知られていた。そこで今回、有馬教授と佐々木教授の共同研究グループは、ヒトの卵子、精子、受精卵および胎盤細胞における全ての遺伝子のDNAメチル化状態を調べた。
その結果、ヒトでは受精卵におけるDNAメチル化のリセットが不完全で、卵子のDNA メチル化情報の一部が胎盤に引き継がれていることが分かった。すなわち、ヒトの場合、この不完全なDNAメチル化のリセットによって一部の遺伝子がマウスとは異なる機構で制御される、ということである。これにより、ヒトに特異的な遺伝子発現制御機構の一端が明らかになったわけだ。
本研究の成果は、受精卵や胎盤におけるDNAメチル化異常に起因するあらゆる病態の解明や治療法開発に役立つと期待される。また、世代を超えたエピジェネティック情報の継承を理解するための手掛かりとなる可能性がある。