シジミチョウとアリの共生関係は蜜と天敵からの防衛を交換条件としていますが、アリは蜜をもらえなくても他の餌を探すことができる一方、シジミチョウはアリがいなければ天敵に捕食されてしまうため、お互いの利益が釣り合っているとはいえません。そこで神戸大学大学院理学研究科の北條賢特命助教と琉球大学、ハーバード大学の共同研究グループは、幼虫がアリを引き留めるための何らかのメカニズムをもつと推測しました。ムラサキシジミとアミメアリを用いた実験の結果、蜜を摂取したアリは歩行活動が減少し、ムラサキシジミの元に長くとどまり、しかもより攻撃的になることを発見しました。さらにアリの脳内物質を測定したところ、蜜を摂取したアリは、ドーパミンが減少していることがわかりました。人間ではドーパミンが多すぎると統合失調症などになり、治療にはドーパミンを抑制する薬物が用いられることがありますが、シジミチョウの幼虫の蜜は統合失調症の薬と同じ作用をもっているのです。
この研究により、これまで「相利共生」と考えられてきたシジミチョウの幼虫とアリの関係が、栄養を与える幼虫側の利己的な行動操作によりアリが操作されることで維持されていることが明らかになりました。北條賢特命助教は「アリにとって幼虫の蜜を摂取することがどれほど利益のあるものなのか、さらに研究を進めたい」と話しています。
なお、この研究成果は7月31日付で「Current Biology」に掲載されています。