皮膚のダメージはしばしばQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼすが、組織や臓器の再生能力が低いヒトでは、真皮を含む皮膚全層が大きく失われた場合、損傷した部位の皮膚の肌理(きめ)や付属器(汗腺や脂腺)、色合いが完全には回復せず、コラーゲンを主体とした線維性組織に置き換わってしまう。この線維性組織(瘢痕)はいわゆる“傷あと”として認識され、皮膚再生治療(無瘢痕治癒)研究における大きな課題となっている。
そこで、筑波大学、慶應義塾大学、信州大学、日本歯科大学、宇都宮大学からなる研究グループは、さまざまな臓器を生涯にわたり何度でも完全再生できるとされるイモリに着目し、イモリの皮膚再生過程を詳細に調査した。
その結果、イモリは、体のさまざまな部位で、皮膚全層を切除しても瘢痕のない皮膚をほぼ完全に再生できることがわかった。この再生過程をヒトと比較してみると、イモリでは傷口の再表皮化がヒトよりも素早く完了しており、炎症反応が低く抑えられ、肉芽組織(治癒過程にみられる線維性結合組織)の形成が抑制されていた。
また、ヒトでは、皮膚の切断端に局在する表皮幹細胞が激しく分裂することで傷口を閉じる表皮を形成するのに対し、イモリは傷周囲の表皮幹細胞の分裂頻度をほとんど高めることなく、その周囲の広範な領域の皮膚で、表皮幹細胞の分裂頻度を約2倍に高めていた。傷周囲の表皮に新たな細胞が付加されることで、増加分が傷口に押し出されていき、傷口を素早く閉じることができるという。肉芽形成の結果生じる線維化は、瘢痕が残る原因であると考えられていることから、イモリのユニークな再表皮化原理が、瘢痕化の回避につながっている可能性がある。
唯一、イモリの腹の色模様については完全に回復できなかったというが、ヒトにはイモリのような色模様はないため、イモリの再生メカニズムはヒトの医療においても十分に有用と考えられるとしている。