名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の小鷹研理准教授、金澤綾香(大学院生)は5月25日、手の真上の位置に投影された「手の影」を見ることによって、手の位置感覚が「手の影」の位置である上方へと引き上げられることを実験により確認したと発表した。
世界的に「からだの錯覚」に関する研究が進んでいる。最もよく知られているタイプの錯覚が「ラバーハンド・イリュージョン(rubber hand illusion)」であり、「肉体の手」とそれに類似した「偽の手」のイメージの双方に与える各種の感覚を同期させることによって、「偽の手」を実際に所有しているような感覚(「身体所有感」)が誘発されることがわかっている。こうした成果は、VR技術に活用されているほか、不全となった四肢の感覚を正常化するための鏡を使ったリハビリテーションにおいてもその有効性が確認されている。
通常「からだの錯覚」を引き起こすためには、実験者による触覚動作の介在、あるいは体験者当人による運動動作(および「偽の手」の動きの同期)が必要である。錯覚を誘発する唯一のディスプレイとして「鏡」があるが、鏡像の特性上から錯覚によって誘発できる「位置感覚」の変移は水平方向に限られていた。
今回、小鷹准教授の研究チームは、影現象に着目し、手の真上の位置に「手の影」が投影されるような簡単な装置を作成したところ、対照条件(「長方形の影」)と比較して「手の形の影」を見たときに、影に対する主観的な「身体所有感」が向上することがわかった。これは、影がその保有者である身体の「位置感覚」を実際に変調する特性を有していることを世界で初めて示したことになる。また、今回の実験装置はコンピュータなどを一切使用しない非常に簡素なものであり、こどもが「からだの錯覚」を身近に体験するための方法としても有用であるとしている。
論文情報:【i-Perception】Innocent Body-Shadow Mimics Physical Body