名古屋大学の花房洋講師、松本邦弘教授らのグループが細胞分裂の方向をコントロールするメカニズムを解明しました。細胞分裂の方向は脳の形成など、体の様々な器官の形成に関与していると考えられています。この成果が脳の形成が上手くいかない小頭症などの病気の解明につながるかもしれません。
受精卵の細胞分裂など、生物の発生の段階において細胞がどの方向に分裂するかはその後の分化の決定、つまり体の器官を形作る上で重要でになります。特に胎児の時期の神経の分化は、小頭症という病気に大きく関係していることが分かってきています。
細胞がどの方向に分裂するかは、2つある中心体という細胞小器官やそこから延びる紡錘体及び星状体微小管という微小な管が重要な役割を果たしています。細胞分裂時にまず中心体が細胞内の両端に分かれます。その後中心に向かって紡錘体、反対方向に星状体微小管が伸びていき、両端から延びた紡錘体が合流する辺りから細胞が2つに分かれます。一方、星状体微小管は細胞膜に接着されることで紡錘体が伸びていく方向を固定します。つまり、星状体微小管が細胞分裂の方向を決定する上で重要な役割を果たしているのです。今回の研究では、ある種の酵素の発現を抑制すると星状体微小管が形成されなくなり、紡錘体全体が傾いてしまうことが分かりました。そのため細胞の分裂方向に異常が起きてしまいます。さらにこの酵素の働きを化学的に解析したところ、中心体を構成する物質の一部に化学変化を起こしていることが分かりました。これは従来から微小管の形成に関与していることが知られていた物質です。
今回の研究成果はたった一つの酵素の働きに異常が起こるだけで、脳が上手く成長しなくなってしまう可能性を示唆しています。今後の研究でこういった異常を防ぐ方法を見出すことができれば、小頭症を始め、重大な病気の予防にもつながるかもしれません。