名古屋大学大学院情報学研究科の中田龍三郎研究員と川井伸幸准教授らは、鏡に映った自分の姿を見ながら食べることで、1人の食事でもおいしく感じることを明らかにした。
近年、団らんの場としての食事の機会は失われつつあり、1人で食事をする「孤食」の機会が増えている。特に独居する高齢者の孤食傾向は年々増加。高齢者の生活の質と食事の楽しさが密接に関わるとの報告や、鬱や食欲減退がそれぞれ孤食と関連するとの指摘もあり、孤食の問題を容易に解決する方法が求められていた。
一方、多くの動物では、他者の存在によってその行為の遂行が増すという「社会的促進」が確認されている。ヒトの場合、1人で食べるよりも誰かと食事をする方が多く食べることや、主観的に感じるおいしさが増すことが知られていた。
研究グループは、65歳以上の高齢者と大学生を対象に実験を実施。自身が映る鏡の前と、壁を映したモニター(鏡とほぼ同じ大きさのもの)の前で、それぞれ皿に盛ったポップコーンを1人で好きなだけ食べ、おいしさの感じ方を点数化してもらった。
その結果、高齢者と大学生のどちらも、モニターの前よりも鏡の前で食べた方が、よりおいしいと感じ、摂食量も増加。さらに、高齢者を対象とした別の実験では、自身が同じものを食べている静止画を映したモニターの前で食事をしても、同様の促進効果が認められた。
このことから、「社会的促進」効果には、「他者」ではなく自身の姿でもよいこと、また、誰かと同じ動きをしているという「運動の同期」も必要ではないことが示された。
世代に関わらず孤食が問題視される現代において、少しでも食事の質を高めることにつながるものと期待される。