痛みは、ときに組織や神経の損傷の程度から予想されるよりも広い範囲で強く生じたり、疲れやすさや不眠、記憶力の低下、気分の不調といった様々な症状(中枢性感作関連症状)を同時に呈することがある。今回、畿央大学大学院修士課程修了生の古賀優之氏と森岡周教授らは、中枢性感作関連症状の評価指標であるCentral Sensitization Inventory(CSI)が共に高値でありながら痛みの強度が対照的な集団(クラスター)の存在を発見した。
CSIは、慢性疼痛と関連することは多くの研究で示されているものの、痛みの強度や痛覚閾値との関連は未だ不明瞭とされている。そこで、今回の研究では、146名の有痛患者を対象にCSIと痛み強度を点数化し、これら二つの評価結果に基づいて、似た性質を持つ集団を抽出するクラスター解析を実施した。
その結果、CSIと痛み強度が共に軽度、中等度、重度といった、CSIと痛みが関連している三つのクラスター(C1、C2、C3)と、CSIが高値でありながら痛みの強度は軽度といった、CSIと痛みが関連していない特徴的な一つのクラスター(C4)が特定された。
C3とC4はCSIが共に高値でありながら痛み強度が対照的(重度/軽度)な関係であったことから、これらの特徴を比較検証した。すると、これらは中枢性感作関連症状の発現状況や心理的因子(痛みの破局的思考や不安・抑うつの指標)にほとんど差がみられず、今回評価した尺度において、「痛みの強度が異なること」以外ではよく類似していることが認められた。
痛みがさほど強くないにもかかわらず疲れやすさや不眠を訴える患者(C4にあたる症例)は、痛みの強い患者がそのような症状を訴える場合に比べて、しばしば不定愁訴として捉えられ、軽視されてしまう。しかし、本研究により、痛みの強弱が異なる患者であっても、そのほかに呈する中枢性感作関連症状には差がないことが認められた。このような症状は運動の阻害因子となり、痛みも改善しにくくなる可能性があるため、軽視せずに適切な対処を行う必要があるといえる。