東京大学大学院総合文化研究科の金子邦彦教授と姫岡優介博士課程学生は、計算機シミュレーションと理論生物物理学を用いて、細胞が休眠状態に入るメカニズムを解明した。
今回、研究グループは、正常タンパク質、異常タンパク質、両者の複合タンパク質というモデル構築を行い、外部の栄養濃度を変えていくことで細胞状態がどのように変化するかの計算機シミュレーションを行った。その結果、①栄養が潤沢にある環境では、正常タンパク質が機能を阻害されずに活発に増殖する。②栄養が枯渇してくると徐々に正常タンパク質が異常タンパク質と複合体を形成する。異常タンパク質による阻害がより進むと成長速度は急落し、化学反応をストップさせ、休眠状態に至る。③さらに栄養が枯渇すると細胞は死に始める。-栄養状態によって、これら3種類の”相”を示すことを理論的に明らかにした。
さらに、研究グループは、休眠状態の細胞に栄養を再び与えた際、成長を再開するまでの待ち時間が飢餓状態に置かれた時間の平方根に比例して長くなること、また、栄養が豊富な環境下での最大成長速度に反比例することを示した。これらの理論値は、近年の実験事実と良く合致しているという。
本研究で構築したモデルは微生物に限らず多くの生物に当てはまるものであり、この結果は、将来的に様々なストレスに対する生物の耐性の解明や薬剤開発などへの貢献が期待される。