今回の大テーマである「人材の輩出」とダイレクトにつながっているのが、ワークショップ4「人材育成(地域ならではの特色をもった人材を育成する)」でした。ここでは宮城大学の人材育成プログラムと徳島大学の「とくしまコンソーシアム」の事例紹介をしてからディスカッションを実施。地域ならではという大きなテーマとどう向き合って人材を輩出するか、興味深い意見が交わされました。

 

 

COC+RとCNコアリションの人材育成の論点

 ファシリテーターである信州大学の末富雅之特任教授がこのワークショップのテーマである「人材育成」に関する3つのディスカッションテーマ「①地域の企業・産業・社会の魅力づくりに必要な人材とは」「②地域ならでは人材育成とは」「③人材育成における大学の役割、地域連携の在り方とは」を提示しました。その後、宮城大学小沢晴司教授より「カーボンニュートラル達成に貢献するための大学等コアリション」の概要について説明しました。各領域でカーボンニュートラル実現のために取り組んでいる5つの分科会で議論を重ねています。全国で100以上の大学が参加し、それぞれの取組事例や可能性・課題の両面を発表して共有する機会を設けた活動です。宮城大学はその中の「人材育成ワーキング」の幹事校のひとつとして、2022年度はカーボンニュートラルを実現するための人材像・育成/教育のあり方について議論し、実践・教材の改善・開発についてもできるところから進めていくと述べました。今回のワークショップテーマと同様の主要論点を掲げていて、非常に共通点の多いテーマです。2022年7月に年度総会が予定されています。

 

 

 

地域環境、地域創生をコアとした育成プログラム

 次に小沢教授が、宮城大学で実施している人材育成プログラムを紹介しました。小沢教授が関わっているプログラムはカーボンニュートラルに資する人材育成を目指していて、「地域環境政策」「地域創生演習」などいくつかの柱が設けられています。

 

 

 「地球環境政策」は、官民のキーパーソンを招いての座学。今後に向けた大きな政策・視座を学びます。地域の産業に関わる企業人も講義を行い、地元にこういう産業があるのだという気付きと興味を喚起。セメント会社、石炭火力発電といったカーボンニュートラルとは対極にありそうな企業もそれぞれの取組を学生たちに伝えました。「地域創生演習」では、東北の災害復興現地フィールドワークも行い、東日本大震災時の避難体験者から直接話を聞くことで、今まで知らずに来たことを改めて胸に刻みました。他には大学構内の林の再生プログラム「森と水のキャンパスづくり」も立ち上り、実施のため各所への説明などが始まっています。

 

 

実践型インターンシップでチーム力を養う

 その後は徳島大学の「とくしま創生人材・企業共創プログラム」を山中英生教授がプレゼンテーションしました。地域を担う質の高い人材を、企業等と協働して育成していくプログラムで、地域の課題を学生・企業がそれぞれどのように解決していくかを探ります。県内企業等の魅力・経営力向上、県内人材定着促進の好循環創出を目指し、県内との関係性をつなげることを目標としています。

 

 

 特徴的なのは、実践型インターンシップを採り入れている点。受け入れ企業により深くコミットできるスタイルで、問題の発見と解決、自ら考える、完結した流れを経験できるメリットがあります。期間も半年以上かけ、チームで臨みます。これらにより、プロジェクト管理やコミュニケーション力を身に付けられ、企業側にも「仲間として活躍してほしい」という期待を持ってもらうことができるわけです。令和3年までに合計68のプロジェクトがあり、山中教授はそのうち3つの事例を紹介しました。ただ、ESG、カーボンニュートラル、SDGsを明言したプロジェクトがなかったということが課題として残っていると述べました。

 

 

地域の課題をテーマに学生を巻き込む

 事例発表の後は、視聴している人たちからの質問も交え、ディスカッションの時間となりました。「地域の企業・産業・社会の魅力づくりに必要な人材とは」の課題に、まず地元の魅力をわかってもらうことが大切と山中教授。そして「地域ならではの人材育成は」という課題に対し小沢教授は、宮城の名産である牡蠣やホヤの加工技術体験を紹介。水産や森林といった地域ならではの環境を利用するプログラムの有用性を示唆しました。

「地域連携のあり方とは」の課題に山中教授は、企業人が学生たちと絡んだ時にリーダーシップをどう取るかという経験がスキルを伸ばす、とインターンシップが企業にもたらすメリットを報告。企業側の受け入れ体制を整えてもらうことも大切と述べます。また、プログラムによっては1年生から大学院生まで混在しているので、経験値の高い学年がいることで学生間の学び合いがいい結果につながっているとも語りました。

 

企業トップと距離が近いことをメリットとして

 ディスカッションの後半、末富特任教授は「どのようなテーマが地域の人材育成に役立つか」との問いを投げかけました。小沢教授は「環境や気候変動、カーボンニュートラルはテーマとして大きいから捉えにくい。町やフィールドに出ていって興味深いことを掘り下げて学べるのが地域のいいところ」。コロナ禍で果たせていないが、これからは人と会う機会を積極的に作りたいと続けました。

 地域企業は経営トップとの距離が近いことが多く、学生はコミュニケーション力を磨けばさまざまな情報に触れることができます。「最終的に就職につなげるのであれば、情報収集力を身に付けてほしい」と山中教授。実践型プログラムは少人数なので、貢献してくれる学生には深くつながっていってほしい、とも述べました。

 最後に末富特任教授は、「地域だからこそ身近なテーマがあり、それが強み。大学は学生と地域をつなぐハブ的役割になるべき。そうやって進んでいけば地域ならではの魅力や特色を創っていける」と結んで、ワークショップを閉じました。

 

【参照】
大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)ポータルサイト

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