山口大学大学院の沖村千夏学術研究員らの研究グループは、武蔵野大学、東京大学のグループと共同で、魚の傷修復に関わる細胞集団のユニークな競合・協調行動を発見した。
創傷(傷)は、痛みや生活の不便さ、美容上の要求から、つねに治療法の開発が望まれている。創傷は周辺の上皮細胞が集団で損傷箇所に移動し傷を埋める自然治癒力によって治癒するため、有効な治療法の開発には細胞集団の移動メカニズムの理解が重要。一方、魚類の創傷治癒はヒトより50倍速い。
魚のウロコを1枚カバーガラスに接着させると、ウロコからケラトサイトという上皮細胞が集団ではい出て擬似傷修復を開始する。集団の先頭ではリーダー細胞たちがタンパク質(アクトミオシン)のケーブルを介し横一列に連結し、フォロワー細胞たちを牽引する。個々の細胞の大きさは変化せず、集団は半円形状のまま相似拡大していく。
研究グループは、この未知の集団移動メカニズムが魚の高速な傷修復のカギと考え、この相似拡大メカニズムの一端を解明した。リーダー細胞たちはお互いをケーブルでつないで集団形状を維持し、加えて、そのケーブルを後続のフォロワー細胞に切断させ、フォロワー細胞と新たにケーブルを接続してリーダーに昇進させて、集団を拡大させていた。
研究グループはこの様式を、働き者のリーダーたちが協力して多くのフォロワーを引っ張っていき、有能なフォロワーをどんどんリーダーに昇進させる社員思いのホワイト企業の急成長に例えている。
このようなメカニズムがヒトに医療応用され、近い将来、瞬く間にきれいに傷が治るようになることが期待されるとしている。