神戸大学、東京都市大学、京都大学の研究グループは、世界規模の調査データを分析し、社会・個人指標により、人々の環境保全に対する多様な価値観の体系的な説明に成功。社会の問題解決により生態系に対する価値が向上することが分かった。
経済活動に起因して気候変動や大気汚染がもたらす環境変化は社会に被害を与える。被害量は「ライフサイクル影響評価(LCIA)」と呼ばれる手法で推定される。今回、この手法で推定した現在の被害量をベースラインとし、被害軽減の社会的重要度を経済評価手法により推定する日本開発の高精度・網羅的な「LIMEモデル」を用い、世界19ヵ国に居住する成人男女6,000名以上の大規模同時調査データを分析した。
その結果、高所得国(GDP/人が1.6万ドル以上)では生物多様性を保全する対策が優先され、中所得国以下(同1.6万ドル未満)では人間健康を改善する政策が優先される傾向があった。
また、平均寿命が短い国や所得不平等度(ジニ係数)が大きい国では、生物多様性保全より人間の健康を優先する傾向があった。ただし、高所得国でも貧困・社会的弱者の場合は人間の健康を優先し、低所得国でも高所得層の場合は生物多様性の保全を優先する傾向があった。
さらに、居住国を問わず、個人の主観的幸福度や相対的所得水準が高いほど、あらゆる環境被害の軽減に対して支払ってもいい金額(支払意思額)が高い傾向があった。
国をまたぐ格差の問題、国内の不平等・幸福感の問題への取り組みは、効果的な環境政策の実装を後押しする。LIMEモデルにより、グローバルサプライチェーンを含む環境会計、炭素の社会的費用の推定、生物多様性保全活動の評価などへの発展が期待できるとしている。