ショウジョウバエでは、傷やストレスに対する応答として、器官を丸ごと作り変えてしまう「決定転換」という驚くべき器官の再生現象が知られている。こうした「細胞がその性質を転換する能力(分化可塑性)」は様々な生物で知られているが、その仕組みはよくわかっていなかった。
東北大学大学院薬学研究科の増子恵太研究員、倉田祥一朗教授らの研究グループは、「決定転換」により眼が翅(ハネ)に変わってしまうショウジョウバエを用いて、「決定転換」に関わる遺伝子を同定したことを発表した。
「決定転換」を担っていることが明らかになったのは、「Wge」「Su(var)3-9」という2つのタンパク質。特に「Su(var)3-9」は、様々な遺伝子の働きに影響を及ぼすことが知られる「ヒストンメチル化酵素」に分類されるタンパク質だった。
「ヒストンメチル化酵素」は、ヒストンタンパク質にメチル化修飾を付与する活性を持つ。ヒストンタンパク質にはメチル化だけでなく様々な化学修飾が施されることが知られており、ヒストンタンパク質上の様々な位置に特定の化学修飾が付与されると、近傍に存在する遺伝子の発現に変化が起こる場合があり、転写が活性化されたり、あるいは抑制を受けたりするという。
「Wge」と「Su(var)3-9」は、協調的にこの化学修飾を調整することで、「決定転換」現象における分化可塑性に重要な機能を果たしていることが明らかとなった。これらと相同な遺伝子はヒトを含む哺乳類にも存在しており、今回の発見は、器官再生や分化転換などの再生医療分野に繋がる基礎的知見になると期待されている。