2022年2月のロシア軍による軍事侵攻開始以降、戦時下のウクライナの人々の生活環境や健康を取り巻く状況の悪化が深刻に懸念されている。この状況を受け、東北大学災害科学国際研究所の藤井進准教授らの研究チームは、ウクライナ語で発信された約9,850万件のツイートを分析することで、戦禍にみまわれたウクライナの医療ニーズやメンタルヘルスに関する状況を把握する研究を実施した。
まず、侵攻後は、侵攻前と比べて、ウクライナ語で発信された1週間あたりの平均ツイート数が約3倍に増加し、そのうち医療やメンタルヘルス関連のキーワードを含むツイート数は約4.4倍に増加していた。
詳細にみると、“糖尿病薬”という語を含むツイートが、侵攻前と比較して侵攻後の急性期(2022年2月24日~3月23日)に43.18倍へ急増するなど、薬関連のキーワードが侵攻後のツイート増加率の一因となっていることを発見した。戦時下のウクライナにおいて、慢性疾患患者の医療不安や治療の需要が増加したことが推測される。
被災時に要配慮者となる“新生児”、“子供”、“高齢者”を含むツイートも、侵攻後は侵攻前より増加した(1.03~3.57倍)。“出産”を含むツイートも、侵攻後の亜急性期(2022年3月24日~6月15日の12週間)には侵攻前の8.08倍に達した。
メンタルヘルスに関しては、心理的苦痛や不安の兆候を表現する際に用いられる用語を含むツイート数が侵攻後の急性期に急上昇したほか、侵攻が長引くにつれ、抑うつ状態やPTSR(心的外傷後ストレス反応)の兆候を表現する際に用いられる用語を含むツイートが増加していた。これらから、軍事侵攻によりウクライナの人々の精神面の不調増加が危惧される状況も示された。
本研究の知見は、今後の国際社会のウクライナ支援に役立てられることが期待される。あわせて、本研究のようなツイート分析は、戦禍や災害にみまわれた人々の心身の健康ニーズをリアルタイムに予測し、どのような支援が必要かを検討する際にも有効な手段となることが考えられるとしている。