長崎大学の河端雄毅准教授らは、10年以上にわたる研究の末に、「餌生物が捕食者から逃げる方向には複数の好みの方向がある」という普遍性の高い現象を、新たな数理モデル(幾何学モデル)により、世界で初めて理論的に説明することに成功した。
これまで、魚類、両生類、昆虫、爬虫類、ほ乳類など幅広い分類群で「逃げる方向に複数の好みの方向がある」という現象が確認されていたが、その理論的な説明はなされていなかった。
今回の研究により、魚を用いて、捕食者の攻撃をかわすのに適した方向(捕食者に対して120~140度)と、捕食者の攻撃を振り切るのに適した方向(170~180度)があり、中間的な方向だと捕まり易いことが判明した。また、数理モデルのパラメータを変化させると、その他の逃避方向パターンも説明できるため、動物全般で、逃げる方向を理解する上での基盤となり得るという。
また、逃げるのに1番良い方向だけでなく2番目に良い方向も、その1番と2番の差に応じて使用頻度を変えながら使われていた。例えば横からの捕食者接近時には、方向転換にかかる時間を考慮すると、かわす方向(120~140度)が1番良い選択で、振り切る方向(170~180度)が2番目に良い選択となる。さらに、1番と2番の逃げ切り易さの差が同程度なら両方を約1:1の確率で使用し、逃げ切り易さの差が大きければ1番を使う割合を8割程度にまで上昇させて両方を使用していた。
今回の研究成果は、どのような神経回路で逃避の方向が決定されるかという点で神経生理学分野にも重要な知見となる。また、車と野生動物の衝突事故の問題、漁具漁法学、スポーツ科学などへの応用が期待されるとしている。