沖縄科学技術大学院大学の新竹積教授と石川裕規准教授らの研究チームは、エタノール蒸気の吸入療法がA型インフルエンザ感染抑制に有効であることを明らかにした。
エタノールは体の表面を殺菌する効果があることが知られるが、本研究チームは、エタノールが体内でも同様の効果を発揮できるのかという着想から、呼吸器感染症の治療にエタノール蒸気を利用するアイデアを考案した。
そこで、加湿器で低濃度のエタノール蒸気を発生させ、A型インフルエンザウイルスに感染したマウスに吸入させると、ウイルスが不活性化し、A型インフルエンザの感染を抑えられることが確認された。
この際、エタノールの濃度が重要なカギだとしている。A型インフルエンザウイルスは、肺細胞を含む気道の表面を覆って保護している液体の薄い層の中に集まるが、エタノール蒸気の投与によってこの液体中のエタノール濃度が20%に達すればウイルスを不活性化できるという。人工肺細胞の実験では、20%濃度のエタノールを体温で処理すると、細胞外側のA型インフルエンザウイルスは1分間で不活性化し、さらに細胞内部のウイルス増加も停止した。なお、20%濃度のエタノールは人工肺細胞に対し毒性がないことも確認している。
このエタノール蒸気吸入療法は、さまざまな呼吸器感染症に対して汎用性があり、費用対効果の高い新たな治療法となる可能性があるという。例えば、A型インフルエンザウイルスは「エンベロープ」と呼ばれる被膜を持ち、これまでパンデミックを引き起こした鳥インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などとも同じエンベロープウイルスの一つである。他のエンベロープウイルスや、変異型のウイルスにも、エタノール蒸気の吸入療法は有効であると研究チームは予想している。
有効性と安全性を慎重に評価していく必要はあるが、エタノール吸入療法は有害な副作用を起こさずに重篤な呼吸器感染症を予防できる可能性があり、将来のパンデミックを防ぐことに貢献しうるとしている。