京都大学ウイルス・再生医科学研究所の古瀬祐気特定助教は、サンタクロースがクリスマスイブにインフルエンザや麻疹といった感染症にかかっていた場合、どれだけの人に病気を”うつす”のか差分方程式を用いた数理モデルによって解析。この研究は、オーストラリア医学会が主催する”ユーモアがあり、皮肉の効いた”研究の特集で採用された。

 世界の一部の地域では、クリスマスイブにサンタクロースが子どもたちにプレゼントを届けてくれると信じられ、子どもたちの90%ほどがサンタクロースの訪問を受けることが先行研究(BMJ, 2016)で報告されている。しかし、多くの子どもたちが一晩で接触するサンタクロースが感染症にかかっていた場合、どれだけの感染伝播が起こり、さらに結果として公衆衛生上どれほどのインパクトがあるかは明らかにされていない。

 そこで、本研究では、感染症の伝播拡大の様子が差分方程式に基づく数理モデルを用いて解析することができることを応用し、サンタクロースが子どもたちに病気をうつす確率を記述し、さらに、どれほどの被害が人口全体に生じるかをシミュレーションによって解析した。感染症としてインフルエンザと麻疹の2種類を考慮。サンタクロースの滞在時間はプレゼントを渡す程度の非常に短い時間だと予想されるため、サンタクロースから子どもたちへの感染伝播効率が、「通常の大人から子どもへ病気がうつる確率と同じ」もしくは「その確率の10%」もしくは「1%」という3つのパターンでシミュレーションを行った。

 解析の結果、インフルエンザについては、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が「通常の大人から子どもへ病気がうつる確率と同じ」である場合には、流行規模が12%増大することが分かった。しかし、「10%」あるいは「1%」のときには、インフルエンザに罹患したサンタクロースによる流行規模の増大は起きなかった。

 また、麻疹については、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が「通常の大人から子どもへうつる確率と同じ」ときには、100%の確率で大規模な流行がおこり、「1%」のときには、通常の大人によって流行が引き起こされる確率とほぼ同じになった。一方で、子どもたちのワクチン接種率が95%のときには、どのようなパターンのシミュレーションを行っても、麻疹に罹患したサンタクロースによって大規模な流行が起こることはなかった。

 近年の研究によって、多くの感染症アウトブレイクは”スーパー スプレッディング イベント(一人一人の感染者の感染力はそこまで強くなくても、一部の少ない感染者が例外的に多くの人に病気をうつしてしまうこと)”によって拡まることがわかってきている。本研究は、サンタクロースによって感染症の流行が起こるという、あまり現実的ではない研究ではあるが、”スーパー スプレッディング イベント”の影響がどの程度であるのかを数理モデルによって示したことで、実際の状況にも還元しうる科学的知見といえる。

論文情報:【Medical Journal of Australia】What Would Happen if Santa Claus Was Sick? His Impact on Communicable DiseaseTransmission

京都大学

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