2017年、日本で初めてデータサイエンス学部を設置した滋賀大学。データサイエンスとは、膨大なデータから「価値」を引き出す、現代に欠かせない学問だ。開設以来、文理融合のカリキュラムや、企業と連携して行うPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)を通じて、あらゆるビジネスやアカデミックの分野で活躍する卒業生を輩出。国内のデータサイエンス教育校の草分けとして、その存在感を示し続けている。学部設立の経緯から学びの特徴、卒業生の進路について、学部長の椎名洋教授に伺った。

 

滋賀大学教員が共同執筆したテキスト。研究と講義をもとにまとめた充実の内容

学びの柱は「情報学」と「統計学」。
幅広い分野の教授陣と文系出身者も多数在籍

「データサイエンスの柱となるのは、『情報学』と『統計学』の2つの学問領域です。どちらも歴史ある学問ですが、以前は国内に『統計学』の学位を授与する学部がありませんでした。しかし、当時本学の学長であった佐和隆光教授は『統計学』の可能性に着目し、新学部の開設を模索していました。時を同じくして、この分野の人材の必要性について政府や各省庁での議論が進んだことで、国内初となるデータサイエンス学部の開設が実現したのです。」

データサイエンスは、社会にあふれるデータから「新たな価値」を引き出す学問。ICT(情報通信技術)の進化した現代では、あらゆるビジネス、医療、教育、環境や災害対策などにおいても、高度なデータ処理能力、データ分析力が求められる。

そこで、学部開設にあたっては、理系・文系に偏らない「文理融合型」の学部組織を目指し、理学部、工学部、経済学部などで情報学や統計学を研究していた教員をはじめ、医学や社会学分野の教員、企業や公的機関での実務経験豊富な人材など、幅広い分野から教員が集められた。

カリキュラムは、①データエンジニアリング系(情報関連)科目、②データアナリシス系(統計系)科目と、③価値創造科目(価値創造の実践、経済、経営系科目などの多分野における価値創造の実例紹介、等)をバランスよく学ぶ構成。

専門科目を学ぶうえでは一定の数学の知識や考え方が求められるが、数学な苦手な学生も安心してほしい。「解析学」や「統計数学」などの科目では手厚いサポートがあり、自習室では大学院生からアドバイスを受けられるなど、文系の学生でも学びやすい環境が整う。またChatGPT の登場もあり、今やプログラミングはAIを使いながら学ぶ時代となった。

「今後、重要になるのはデータの本質と利点を理解しツールとして使いこなす力です。データを分析して終わりではなく、データから価値ある発見をする。さらに課題解決から価値創造-つまり、人を幸せに導くアイデアを生み出し意思決定できること。特に、価値創造の段階では文系的な考えが大いに役立つでしょう」。例年、入学者の2-3割が文系出身という同学部。椎名学部長は「この分野に興味があれば、ぜひ挑戦してほしい」とエールを贈る。

企業連携PBLで実践的に学び、卒業後は、
データサイエンティストやデータを駆使する総合職に

演習系の科目ではPBL形式の学びが実践されている。滋賀大学では、トヨタ自動車、あいおいニッセイ同和損害保険、帝国データバンクなど、100以上の企業や自治体と連携。提供された生のデータをもとにデータ処理や分析を行い、企業や自治体が抱える課題の解決に取り組むなど、実践感覚を磨いている。

「課題もクーポン配布が商店にどんな効果をもたらすかといったマーケティング分析から、レセプトデータを用いた医療系の分析まで多岐にわたります。企業の方が講師になるケースもあって、現場の生の声が聴けると学生には大きな刺激となっています。課題解決に向けて、学生たちは高い熱量と使命感をもって取り組んでいますね」

こうした学びの先にある進路は大きく2つに分かれる。「専門職のデータサイエンティスト」と「データを駆使する総合職」だ。活躍分野は、情報・通信をはじめ、メーカーや金融、物流、建設など幅広い。また毎年15~20人が大学院に進学する一方、起業する学生もいる。

「本学には、学生の起業を支援する『滋賀大学発ベンチャー認定制度』があり、大学からの施設貸与や企業への仲介など様々なサポートが受けられます。第一期卒業生で、データ分析やDX支援を通じて地元中小企業の課題を解決するベンチャー企業を起こした学生が認定を受け、現在、大学を拠点として活動しています」

データサイエンス教育のパイオニアとして
教材テキストやオンライン講座を広く提供

滋賀大学は、2017年に文部科学省が選定した「数理およびデータサイエンスに係る教育推進の拠点校」の6拠点の一つであり、2022年には「数理・データサイエンス・AI教育の全国展開の推進」の11ある拠点校にも選定されたデータサイエンス教育のパイオニアだ。学問の普及のため、大学生や研究者を対象にした教材やコンテンツを多数制作していることにも定評がある。

椎名学長は「本学教員が執筆したデータサイエンスを体系的網羅的に学べる教材テキストは、一般にも市販され、他大学や民間会社でも採用されています」と自信をのぞかせる。

高校生向けにオンラインでデータサイエンス入門講座を開講予定
(期間内無料/2023年6月16日~9月15日)

さらに、誰でも視聴できるオンライン講座サービスMOOC(Massive Open Online Courses:ムーク)では、滋賀大学のデータサイエンス学部教員による講義を配信。2023年6月16日~9月15日には、「高校生のためのデータサイエンス入門」を無料で公開する予定だ。配信を通じて、講義の疑似体験をしてみるのもお勧めだ。

滋賀大学 データサイエンス学部長

椎名洋教授

 

滋賀大学

「琵琶湖世界 BIWAKO Cosmos」から世界へのつながりを拓く

師範学校の時代から140年余、伝統に支えられ、豊かな人間性とグローバルな視野を備えた専門性の高い職業人の養成をしている。2017年にデータサイエンス学部が新設。企業課題を踏まえた協働研究で価値創造など多彩な研究を行い、文理融合型大学への転換を進めています。それ[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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