岡山大学の研究グループは、トランスジェンダー男性に対するホルモン療法による体組成変化を分析した結果、長期的には低用量のホルモン投与でも十分な筋肉量増加効果を認め、安全に治療が継続できることを示した。
岡山大学病院は2001年1月より全国2番目の施設として性別適合手術を行い、2010年9月からはジェンダーセンターを設立。精神科神経科、産婦人科、泌尿器科及び形成外科の4診療科が連携し、メンタルサポートを含め広くジェンダー関連疾患全般の診療を行っている。
生下時の性別と自らの性自認が異なるトランスジェンダーの人々のうち、トランス男性(生下時の性別は女性で自らの性自認は男性であるトランスジェンダー当事者)は、自らの性自認と一致する身体的な変化を求め、男性ホルモン(テストステロン補充)療法を選択することがある。男性ホルモン製剤により、月経の停止、筋肉量の増加、声の低音化などが起こるが、トランス男性がホルモン療法で主に期待する筋肉量増加や筋力増強を効果的にもたらすための投与スケジュールは、完全に確立されていないという。
そこで本研究では、岡山大学病院でホルモン療法を受けたトランス男性291人の体組成変化を長期的に調べ、ホルモン療法による筋肉量増加効果を検証した。
結果、筋肉量は、治療開始1年までに大きな増加を認め、その後は緩やかな増加傾向を示すことがわかった。ホルモン投与量による比較では、治療開始1年以内は、高用量で治療を行った患者の方が、低用量で治療を行った患者よりも筋肉量増加の効果が高かったが、1年以降は明らかな差を認めず、10年まで同様な変化を辿った。月経停止の割合や副作用(多血症や肝機能障害など)の程度や頻度についても、高用量と低用量で明確な違いはなかった。
以上から、1年以内の早期の効果を得たい場合には、高用量のホルモン投与の方が優れている可能性があるが、長期的には低用量のホルモン投与でも効果が劣ることはなく、十分な筋肉発達を促進できることが明らかとなった。
この研究成果は、医療従事者や当事者にとって、適切な治療法を選択する上で重要な情報となり、多くのトランス男性が安心して治療を受けるためのガイドライン整備にもつながることが期待される。