筑波大学の研究グループは、統合情報理論を用いて生体信号を包括的に定量化することでストレスを評価する新たな手法を開発し、このストレス値が「退屈」の感情と相関することを発見した。
ストレスは、自律神経や脳の伝達物質、神経活動、環境などが複雑に絡み合う現象であるため、さまざまな独立の生理指標(血圧、発汗、脳波など)と主観的なストレス評価が食い違うことはしばしばである。そこで今回、複数の時系列データからなる動的なシステムのまとまり(統合度)を理解しようとする手法である統合情報理論を用いて、客観的生理データを示す生体信号全体の活動からストレスを数理的に評価する新たな試みに取り組んだ。
被験者20人に、一時的なストレスを引き起こすストレッサー(外部刺激)として難易度の異なる(低、中、高)計算課題を解いてもらい、課題実施中の身体と脳の反応に統合情報理論を適用することで、課題の難易度(ストレスの程度)と身体システムの統合度の関連を調べた。
その結果、低難易度および高難易度の課題で統合度が高まり(身体と脳の相互作用が増加)、中難易度の課題で統合度が低くなっていた(ストレスが小さい)。このことは、中難易度の課題には好きなペースで取り組める一方で、高難易度の課題では解けない問題を受動的にやり続けざるを得ない、あるいは低難易度の課題ではあまりに問題が簡単なために「何もしないことを強いられている」状態になっていることを意味するとしている。
さらに、課題中の被験者の主観的な感情をアンケートによって調べ、生理データから得た新指標と比較した結果、新指標は「退屈」の項目と強く相関することがわかった。すなわち、主観的なストレスの基盤に「退屈」という感情が存在する可能性が示唆されたとしている。
本研究が提案した新指標は、ストレスにおける退屈の感情を数値化できる可能性があり、労働環境や教育現場などでのストレス管理にも役立つことが期待される。