創立120周年を機に大学改革を推進する日本女子大学。2021年には、創立の地で都心にある目白キャンパスに全学部学科および大学院を統合。学びの面でも、グローバル化やデジタル化の進む現代社会を生き抜く総合知を養うため、2022~2024年度までに、理学部2学科の名称変更、国際文化学部、建築デザイン学部の開設を行うなど、学部学科の抜本的な見直しを進めている。さらに今後、2025年度には食科学部の開設、2026年度には文学部2学科の名称変更を予定。2027年度に経済学部経済学科の開設を構想中であることを発表するなど、その改革の手が緩むことはない。篠原聡子学長に大学改革への思いを伺った。
新タグライン「私が動く、世界がひらく。」に込めた思いと、
生まれ変わった「目白の森キャンパス」の狙いとは
1901年(明治34年)の創設以来、日本の女子高等教育の先駆けとして歩んできた日本女子大学。私立女子大学としては唯一の理学部を擁し、文理融合の多様な教育環境を整えるなど、常に新たな道を切り開いてきた。現在、次代に向けた大規模な大学改革を推進中だ。
改革推進にあたっては、大学の価値を示す新たなタグラインとして「私が動く、世界がひらく。」を制定。「この言葉は、“変わって欲しくない日本女子大学の良さ”と“未来に臨む日本女子大学の新しい良さ”について、本学の教職員と学生が改めて考え、意見を交わした結果たどり着いたもの」と篠原学長は説明する。これはまた、日本女子大学の創設者である成瀬仁蔵が、自ら考え、自ら学び、自ら行動することの重要性を唱え、教育理念に掲げた“自学自動”の精神を受け継いだ言葉でもあるという。
120周年となる2021年には、すべての学部学科と大学院を、JR山手線という都心にありながら緑豊かな創立の地・目白キャンパスに統合し、学ぶ環境も生まれ変わった。1906年落成の成瀬記念講堂など歴史ある建造物を残しながら、新図書館や学生滞在スペース「青蘭館」「杏彩館」、新教室・研究室棟「百二十年館」を新たに建設。学生が気軽に滞在し、グループディスカッションや授業外学修などに利活用でき、地域との連携もはかれる空間を創出した。
「新しい目白キャンパスのコンセプトは“目白の森のキャンパス”です。学生たちが主体的に学び、学部や学科の枠を超えて交流を深められるよう、滞在型キャンパスとしてグランドデザインを一新しました」。その言葉の通り、学生が思い思いに過ごせる心地のよい居場所や、自然に交流が生まれる動線・空間がキャンパスのそこここに仕掛けられている。
2027年度までに、8学部16学科体制へ
学部学科の再編も大きな目玉だ。2022年度には、理学部数物科学科を「数物情報科学科」に、物質生物科学科を「化学生命科学科」に名称変更。2023年度には「国際文化学部」を、2024年度には「建築デザイン学部」を開設した。
国際文化学部は、海外短期研修を必修とするなど“脱教室・脱キャンパス型”の学びを重視。キャンパス外での経験を積む機会を豊富に揃え、多文化共生の視点を備えたグローバル人材の育成をはかる。建築デザイン学部は、家政学部住居学科が大切にしてきた生活者の“住まう”視点を根底に置きながらも、より広い観点で建築と建築を取り巻く環境について考え、“建築デザイン”の高い専門性を磨くことを目的としている。
さらに今後、2025年度に「食科学部」の開設、2026年度に文学部2学科の名称変更、2027年度には「経済学部(仮称・設置構想中)」の開設を控えており、2027年度までに、家政・文・人間社会・理・国際文化・建築デザイン・食科学・経済の8学部16学科の総合大学へとさらなる進化を遂げる。
【食科学部】2025年4月開設予定
これまで5800名以上の卒業生を輩出してきた家政学部食物学科を母体に、さらに学びを発展させた食科学科と栄養学科の2学科を設置する。
●食科学科
生活者の視点で食の科学を学ぶ。食品学系、調理学系、栄養学系の各科目を中心に、演習科目として食品開発も用意。卒業後は、企業や研究機関の食品開発・研究者、中学・高校の家庭科教諭、起業家など、食のさまざまな領域での活躍が期待される。
●栄養学科
基礎科学をベースに、医学的視点で栄養学や食品学、調理学などの科目を学ぶ。臨床における技能や実践力の習得にも力を入れ、質の高い実験・実習指導で、社会に貢献する管理栄養士を目指す。卒業後は、医療施設や保健所・保健センター、行政、教育、福祉施設、給食会社、研究機関、スポーツ施設などが想定される。
【文学部日本語日本文学科・歴史文化学科】2026年4月名称変更
現在の日本文学科は、文学だけではなく言葉そのものや教え方も学んでいるため「日本語日本文学科」に、史学科は、歴史だけではなく人の心の表れである文化についても学んでいるため「歴史文化学科」に、学習内容をより明確にするため、それぞれ学科名称を変更。これにより、それぞれの学びをより深めていく。
【経済学部(仮称)】2027年4月設置構想中
家政学部家政経済学科を基礎に、経済学および経営学の理論から応用、実践まで、少人数の演習授業や学外での実践的な学びの機会を通じ、幅広く体系的に学べる学部となる予定だ。
(本計画は構想中であり、内容は変更となる場合があります)
自ら考え、選び、行動する経験が大きな成長を促す。
日本女子大学という環境だからこそ得られる学びがある
最後に日本女子大学で学ぶ意義について篠原学長はこう語ってくれた。
「社会を俯瞰してみると女性の活躍はいまだ決して充分とは言えません。男女格差を測るジェンダーギャップ指数をみても、日本は146カ国中125位と低い数値です。こうした日本社会において、ジェンダーバイアスがリセットされた環境で学べる点に女子大学の存在意義があると考えています」
女子だけの環境だからこそ、無意識の性別役割や制約を意識することなく、のびのびと自分らしい発想で学んだり、経験を積んだりできるのだという。「他大学と共同で行っている建築プロジェクトを見ていても、本学の学生は男子に遠慮したり、物怖じしたりせず、自分からリーダーを務めてくれます。ジェンダーバイアスがなく育っている学生の推進力を感じますね」
さらに、学生数約6500名、文理融合のさまざまな学びを専門とする学生が学ぶ日本女子大学には、“中規模な大学だからこそ、学生と教員が深く関わり学びを得られる”という利点もある。「本学では早期に専門教育を開始し教養科目と並行して学んでいきますが、他学部の学生と日常的に交流する機会を通じて、専門分野への理解をより深めることができます。例えば、建築デザイン学部なら、建築デザイン以外の多様な知を得ることで、建築物の歴史的な背景や文化的な意味まで理解することができるでしょう」と篠原学長。また、学生全員が卒業研究、卒業論文や卒業制作に取り組むことも、自ら課題を設定し、研究に取り組み、成果を出す経験となり、成長の大きな糧となるはずだ。
「先行きが不透明な時代において、女性が就職、結婚、出産、子育て、介護と人生のライフイベントを自らの手で乗り切るにはタフネスが必要になるでしょう。これから進学するみなさんには、ぜひ日本女子大学で人生を豊かに生き抜くタフネスを身に着け社会に大きく貢献していただきたいと願っています」
日本女子大学 学長・建築デザイン学部建築デザイン学科教授
篠原 聡子
1981年日本女子大学家政学部住居学科卒業。日本女子大学大学院修了後、香山アトリエを経て、空間研究所主宰。
1997年から日本女子大学で教鞭を執り、現在、日本女子大学建築デザイン学部建築デザイン学科教授。2020年5月より同大学学長。研究分野は、建築設計、住居計画。
主な作品は、竹内医院(2010、千葉県建築文化賞2011)、日本女子大学附属豊明幼稚園(2011)、SHAREyaraicho(2012、住まいの環境デザイン・アワード環境デザイン最優秀賞2013、日本建築学会賞[作品]2014)、SHAREtenjincho(2021)など。
著書に、『住まいの境界を読む 新版』(彰国社、2008)、『おひとりハウス』(家を伝える本シリーズ、平凡社、2011)『アジアン・コモンズ』(平凡社、2021)などがある。