2024年12月16日、愛媛大学で「一級建築士」の受験資格を得られるプログラムが、2026年度よりスタートすると発表になりました。具体的には、工学部工学科「社会デザインコース」を、2026年度から「建築・社会デザインコース」に変更し、このコースで「一級建築士」受験資格を得られるようにするとのことです。愛媛県内に「一級建築士」受験資格に対応した教育機関を求める強い要望が寄せられていたことから改組に踏み切ったとのこと。
 愛媛県には、今まで「一級建築士」受験資格が得られる学科専攻が1つもなかったのか?という驚きもあり、既存コースに「一級建築士」受験資格が得られるプログラムを加えてしまったら、「一級建築士」希望の学生ばかりになってしまうのではないかという心配もあります。今回のコラムでは、この2つについて、考察してみます。

 

「一級建築士」受験資格が得られる学科専攻を設置していない県は、国立大学だけで見ると複数あるが、公立・私立・高専まで含めると愛媛県だけ

 「一級建築士」のようなメジャーな資格であれば、どの国立大学でも受験資格が得られる学科専攻を設置していると思われそうですが、実は設置されていない大学は多いです。全国の国立で12県12大学あります。理工系学部を設置しているものの、理工系学部の中に建築系の学科専攻が設置されていない状況です。

 12県のうち、公立・私立大学で「一級建築士」受験資格が得られる学科専攻を持っている大学がある県を除くと、岩手県、山梨県、愛媛県、宮崎県の4県となります。山梨県と宮崎県には、高等専門学校(5年)+専攻科(2年)で「一級建築士」受験資格が得られる学校があり、岩手県には、資格登録に4年の実務経験は必要になりますが、高等専門学校(5年)で「一級建築士」受験資格が得られる学校があります。そうなると、愛媛県だけが「一級建築士」受験資格が得られる学校がないということになります。

【公益財団法人 建築技術教育普及センター】一級建築士の受験・免許登録時に必要となる科目と単位数(学校・課程別)
https://www.jaeic.or.jp/shiken/1k/1k-gakko-kamoku/index.html

建築士の役割は「設計・工事監理」だけでなく「既存建築物の調査・有効活用」など建物全般へ領域が広がり、建築士制度の見直しも行われた

 大規模なビル建設が全国各地で予定されているとはいえ、人口が減少していく中では、そこまで「一級建築士」の需要は高くないのではとも考えてしまいます。しかし国土交通省の説明などを見ると、建築士の役割は新築の建物の設計だけではなく、既存の建物を含め領域が広がり、建築物全般の専門家としての役割が増加していることが分かります。この需要増にあわせて継続的かつ安定的に人材を確保していくために、2020年に建築士法の一部が改正されています。

 建築士法の一部改正では、「一級建築士」試験を受験する際の要件であった「実務の経験」について、免許登録の際の要件を改め、原則として、試験の前後にかかわらず、免許登録の際までに積んでいければよくなりました。また「実務経験」の対象範囲も拡大されています。これにより、学校卒業後すぐに資格試験を受けられるようになるだけでなく、受験対象者も広がっていくことになります。

【国土交通省 住宅局建築指導課】新しい建築士制度の概要について(PDF)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001314965.pdf

工学系の中でも「一級建築士」受験資格が得られる学科専攻の志願倍率は高く、偏差値も高い大学が多い

 文部科学省の学校基本調査における関係学科別志願者集計では、建築は、土木と一緒に集計されており、建築系だけの数字はあまり出てきていません。実態としては、工学部の学科系統の中では、最も志願者を集め、最も偏差値が高くなっている大学が多くなっています。これは、国公立大学だけでなく、私立大学でも同様の傾向があります。成長分野と言われる「情報系」よりも、高倍率になっている大学も多くあります。また、工学系以外では、芸術系と生活科学系の学部も、やはり「一級建築士」受験資格が得られる学科専攻は人気が高くなっています。

愛媛大学 工学部 建築・社会デザインコース 文理型入試に加えて、理型入試5人

 愛媛大学工学部では、2026年度入試より「一級建築士」受験資格が得られるプログラムが導入され、コース名は「建築・社会デザインコース」となります。すでに実施している文理型入試等25人に加えて、理型入試5人を加えるかたちになるようです。2026年度入試の一般選抜「理型入試(前期日程)」では【数学(数Ⅲ必須)200点、理科1科目100点】の「理型入試A」と、【数学(数Ⅲなし)100点、理科1科目200点】の「理型入試B」に分けて募集し、これまで理科の選択科目になかった「生物」を選択できるようにする変更もすでに発表しています。

 建築・社会デザインコースの理型入試は、募集定員が少ないこともあり、高倍率になることが予測されます。また、文理型入試で入学した学生が「一級建築士」をどのくらい希望するかも気になります。建築士系学科専攻の偏差値が高いことから考えると、「一級建築士」を希望している生徒が合格しやすいと考えられますので、出願時などに調整が入るのかどうかは気になるところです。

【愛媛大学】【令和8年度愛媛大学工学部入学者選抜における「一般選抜(理型入試)の改革」「女子枠入試の導入」について】2024年11月28日発表(PDF)
https://www.ehime-u.ac.jp/wp-content/uploads/2024/11/R8_kougakubu_jyoshiwakunyushi-2.pdf

私立大学では理工系学部から、建築は学部として独立し拡大が続く。近畿大学では建築学部の通信教育課程も新設される

 国公立大学の「一級建築士」受験資格が得られる学科専攻において、「都市」「環境」というワードが入った学部名はありますが、「建築」が入った学部はありません。私立大学では、学部名に「建築」が入った学部は2011年度以降に多く誕生しており、2025年度の改組分を含めると21大学となっています。国公立大学の場合は、「建築」を独立させるほど入学定員が多くないという理由もありそうですが、横浜国立大学(都市科学部)や宇都宮大学(地域デザイン科学部)のように、他学科と組み合わせて新学部を設置するという方向も考えられます。

 また、2025年4月に近畿大学は、建築学部の通信教育課程を新設します。入学定員は、1年次入学100名、3年次編入500名となっており、通信教育課程でも「一級建築士」受験資格を得られる学科専攻は拡大しています。現在は、成長分野である「情報系」の定員拡大が大きくなっていますが、高校生に人気の高い「建築系」はやはり今後も注目度が高い分野となっています。

大学ジャーナルオンライン編集部

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