2021年度から国の「高等教育の修学支援新制度」が始まり、大学進学における国の奨学金は充実してきています。また、国だけでなく自治体、企業、大学、財団法人等の奨学金もあり、その数は増え続けています。その中でも近年増加数が多いのは、「理系」向け奨学金です。
デジタル・グリーン等の成長分野における将来の人材不足の予測から、理系分野を専攻する大学生の割合を、2022年時点の約35%から2032年頃までに50%程度にする目標を国が設定しています。また、成長分野の研究をしている企業は、理系分野の優秀な学生を採用する意欲が高くなっています。大学で理系を選択すると大学院まで6年間通う学生も多くなるため、障害の1つになると考えられているのが「学費」です。私立大学の「理系」は、さらにその障害が大きくなっています。
理系選択をするための学費の障害を少しでもなくすために「理系」向け奨学金が増えているわけですが、ここ数年で、分野横断的な考え方が重要視され、文理融合学部が多く新設されているため、「理系」とは、どの学部までを指しているのかはっきりしなくなってきています。
今回は、「理系」向け奨学金を7つピックアップして、それぞれの理系とはどこまでの範囲なのかを調べ、現時点での「理系」という分野の認識について考えてみました。
高校における「理系」とは、どのような認識か。DXハイスクールには「大学理系学部進学率」の目標設定がある
一般的に、高校2年生から文理にクラスが分かれ、「理系」クラスに入っている人は理系学部の進学を目指していくことになります。高校の先生は、理系クラスから進学する学部のほとんどを理系学部として考え、理学部、工学部、農学部、医学部、歯学部、薬学部、看護・医療技術系学部、教育学部(理数教科)、文理融合系学部を含めてカウントしていると予測されます。
⾼校段階におけるデジタル等成⻑分野を⽀える⼈材育成の強化のため、2024年度から、国の事業として「DXハイスクール」がスタートしています。初年度は全国で1010校が選ばれ、採択校には「情報Ⅱ等 生徒履修率」や「大学理系学部進学率」の目標が設定されています。「大学理系学部進学率」は、採択校の数値平均で現状19.5%から2028年度には28.9%とする目標数値になっていますが、各高校が申請する理系学部進学者のカウントには、厳密な規定はない(具体的な学部学科が指定されていない)ようです。
文理融合系学部の中には、情報や環境だけでなく、リベラルアーツや心理や国際、スポーツなどもありますので、理系学部かどうかは、高校の先生でも判断はかなり難しくなっているのではないでしょうか。
増加している「理系向け奨学金」における「理系」とは?
近年の人材不足の中でも、特に成長分野における理系人材が不足していることもあり、理系向けの奨学金が増えています。その目的は、世界的な科学者を育成するため、企業への技術者としての就職を促すため、企業イメージのブランド化のため、自治体への技術者としてのUIターン就職を促すためなど、さまざまです。これらの理系向け奨学金における、「理系」の設定は、奨学金により大きく異なっているのが実態です。どれが正しいというものはありません。このあと、7つを紹介していきたいと思います。
① 日本学生支援機構「私立理工農系 授業料等減免」
■2026年度大学等入学者
2025年4月~予約採用、または2026年4月対象大学への入学時申請(在学採用)
■減免額
入学金 8万6700円 授業料 23万3400円(年額)
■理系の条件
文科省で定められた理工農系学部学科の対象機関リストあり
私立理工農系の授業料等減免は、2021年度からはじまった高等教育の修学支援新制度の中で、2024年度より追加されました。第4区分(目安としては年収約380万~600万)の家庭で、私立大学の理工農系学部の在籍している学生が対象(短大・専門学校も対象)になります。正確には、支給額算定基準額※で決まります。対象となる私立大学の理工農系学部・学科は、文部科学省から指定されています。
※支給額算定基準額(a)=課税標準額×6%-(市町村民税調整控除額+市町村民税調整額)(b)(100円未満切り捨て)
<参考>
【文部科学省】高等教育の修学支援新制度
【文部科学省】理工農系学部学科の対象機関リスト(2024年11月29日時点)
【日本学生支援機構】進学前(予約採用)の給付奨学金の家計基準
② あしながMUFG奨学基金(理系大学生支援金)
■2026年度大学入学者
あしなが育英会大学奨学生に採用された人が対象
奨学生の予約募集は2025年3月頃公開予定、在学募集もあり
■支援金額
4万円(月額)
■理系の条件
文部科学省「学科系統分類表」の条件や、受験科目での条件あり
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループからの寄付で2022年度に創設。「理系大学生支援金」「文系大学生支援金」 「理系大学院生支援金」「大学進学支援金」の4種類があります。「理系大学生支援金」は文系と比べ支援金額が大きく、返済不要の給付金4万円(月額)を入学から卒業まで受給可能。ただし「あしながMUFG奨学基金」単独での申請はできず、対象となる「あしなが育英会大学奨学生」に採用された人に別途案内が送られることになっています。この支援金における「理系」の基準は文部科学省の定める「学科系統分類表」に基づいており、文理融合系学科については受験科目で判断するため、かなり厳密です。
●文部科学省「学科系統分類表」における大分類が以下の条件
①大分類が「理学」「工学」「農学」「保健」「商船」に属する小分類(学科)。ただし、大分類「農学」の中分類「農学経済関連」は対象外です。
②大分類が「その他」のうち、中分類が「教養学関連」に属する小分類(学科)
●受験科目での対象
一部文理融合系学科については、受験科目で判断します。 大分類が「その他」のうち、中分類が「総合科学関係」または 「その他」に属する小分類(学科)については、一般受験の際に受験科目に数Ⅱまたは理科系科目ひとつが必須になります。受験方法は一般選抜だけでなく推薦型選抜や総合型選抜による入学でも対象になります。同じ名前の学科が他の学部に存在するケースがあります。大分類と受験科目でも判断できない時は問い合わせが可能です。
<参考>
【あしなが育英会】奨学金について
【あしなが育英会】あしながMUFG奨学基金
【文部科学省】学科系統分類表(PDF)
③ 山田進太郎D&I財団 STEM(理系)女子奨学助成金
■2025年4月時点で高校または高専の1・2年生
2025年5月から募集予定
■給付金額
10万円(採用後に一括で給付)
■理系の条件
STEM分野の学部への進学を目指し、給付の内定後に「進路選択確認書」を本人と教員または担当者が記入して提出
公益財団法人山田進太郎D&I財団は2021年、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進することで、ジェンダー・人種・年齢・宗教などに関わらず、誰もが自身の能力を最大限に発揮できる社会の実現へ寄与することを目的に設立されました。財団の代表理事は、メルカリ創業者の山田進太郎氏。2035年までにSTEM分野(※1)で大学に進学する女性の比率を2024年度の20%(※2)からOECD平均である28%(※3)に引き上げることを目標としています。
この取り組みの一環として始まった、理系選択を応援する「STEM(理系)女子奨学助成金」は、これまでに日本全国の中高生女子約1200名に支給されました。返済不要で、パソコンを買ったり、塾に通ったり、興味がある分野の体験プログラムに参加するための費用などに利用されています。女子が対象になっていますが、成績や所得に関係なく応募できるのは特徴的です。また、他の奨学金とは異なり、高校在学中に受け取ることができる奨学金となっています。
この奨学助成金の趣旨はSTEM(理系)を選択する中高生女子を応援するもので、申し込み後から給付までの期間中に変更が生じ、文理選択で文系クラスを選択することを決めた場合は給付対象外となります。
※1)「科学:Science」「技術:Technology」「工学:Engineering」「数学:Mathematics」の頭文字
※2)文部科学省の学校基本調査「関係学科別入学者」における理学と工学区分の入学者比率
※3)2021年財団設立時に文部科学省の学校基本調査およびOECD, Education at a Glanceのデータに基づいて算出した数値
<参考>
【山田進太郎D&I財団】STEM(理系)女子奨学助成金
【山田進太郎D&I財団】奨学助成金事業(志望分野等)
同財団は、STEM(理系)女子奨学助成金以外にも「Girls Meet STEM」という大学や企業でSTEM領域の仕事や学びを体験することで、自分の好きなこと・やりたいことを発見するためのプログラムも提供しています。
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