東京大学社会科学研究所のグループは、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を毎年実施している。同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という追跡調査により、個人の行動や意識の変化を適切に捉えることができる。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活にどのような影響を与え、日本で生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。
今回は、最新の2024年調査を含む17年分のデータを用いて、(1)利他的行動、(2)居住地域に関する意識、(3)介護の状況と影響、(4)親の死別と経済状況、という4つのトピックについて分析した。
(1)利他的行動については、他人の利益のために行う行動がどのような要因と関連しているのか分析した。過去1か月に何らかの利他的行動を行った人は、回答者全体の約3割で、「学歴(教育水準)」「暮らし向き(経済的豊かさ)」「市民参画(投票の有無)」「共感性(他者との共感能力)」が関連要因であることがわかった。
(2)居住地域に関する意識については、地区の安全意識、共助意識、医療への安全意識という3つの居住地域に関する意識を、過去の時点の調査結果と比較した。その結果、地域社会での共助は若干ではあるものの弱まっているなかで、居住環境の安心・安全に対する評価は改善に向かっていた。
(3)介護の状況と影響については、2024年時点で仕事以外で介護をしている人の割合は8.1%であることがわかったが、その割合は年齢が上がるにつれて高く、男性よりも女性で高いことがわかった。また、10年分のデータから、介護は就業や健康に悪影響を与える可能性があることがわかった。
(4)親の死別と経済状況については、一般的に親との死別は子の世帯収入に影響を及ぼさないが、死別前まで親と同居していた無配偶者においては、世帯収入が約100万円低下することが明らかになった。すなわち、親の年金収入等が得られなくなることのインパクトは、親と同居する無配偶者にとっては小さくないことが示唆された。
実証研究に基づく本研究の知見は、今後の政策議論を深める素材を提供しうるものと期待される。