京都大学の研究グループは、スマホアプリを通じた世界最大の臨床試験で、自学自習による認知行動療法(CBT)スキルがうつ状態の改善に有効であることを示した。

 今回、臨床試験の対象としたのは閾値下うつ状態を有する日本全国の成人である。閾値下うつ状態は、うつ病の臨床的診断基準を満たさないものの、抑うつ症状や意欲低下などが継続している状態を指し、人口の約11%が該当するとされる。これらの人に対し、現在は複数スキルの組み合わせで構成されているCBTの、個々のスキルの有効性を解明すべく、全国からオンラインで参加者を募集し、3,936名の協力を得てデジタル介入試験を実施した。

 研究グループは、行動活性化、認知再構成、問題解決、アサーション、睡眠行動療法の5つのCBTスキルを自学自習できるスマホアプリ「レジトレ!®」を開発し、参加者に単独のスキルおよびその組み合わせによる6週間の介入と抑うつ症状スコア(PHQ-9)の変化に基づく評価を行った。

 その結果、すべてのスキルがうつ状態の改善効果を示し、特に睡眠行動療法、行動活性化+認知再構成、行動活性化+問題解決、行動活性化+アサーションが大きな効果を示した。効果サイズは、それぞれ無治療群と比較して-0.46、-0.47、-0.49、-0.44であり、いずれも抗うつ薬の効果サイズ(-0.31)を上回ったとしている。さらに、これらの効果は、介入の半年後(26週間後)にも有意差を維持し、持続していることが確認された。

 本研究成果は、心理支援を受けづらい環境にある人々にとって、「レジトレ!®」のようにCBTスキルの獲得を支援するスマホを活用した新たなセルフヘルプ手段(“ポケットの中のセラピスト”)が、うつ・不安の軽減と予防に有効である可能性を示している。また、CBTを構成するスキルごとに効果が異なる点も明らかにしたことで、今後の個人特性に応じたメンタルヘルス介入設計の最適化や個別化に貢献する知見を提供したとしている。

論文情報:【Nature Medicine】Cognitive behavioral therapy skills via a smartphone app for subthreshold depression among adults in the community: the RESiLIENT randomized controlled trial

京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

自学自習をモットーに、常識にとらわれない自由の学風を守り続け、創造力と実践力を兼ね備えた人材を育てます。 学生自身が価値のある試行錯誤を経て、確かな未来を選択できるよう、多様性と階層性のある、様々な選択肢を許容するような、包容力の持った学習の場を提供します。[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。