今に始まったことではありませんが、日本は世界的に見ても、大学における理工系学部入学者の女子比率が低い状況が続いています。OECD諸国だけで見ても最下位です。ここまで低くなる要因は複数あると考えられていますが、その一つに「ジェンダーバイアス」があります。たとえば「数学ができるのは男性である」といった能力に関する性差の思い込みです。この状況を改善するため、これまでもさまざまな取り組みが行われてきました。その代表ともいえるのが、理工系学問分野の関心をサポートするイベントや、理工系分野で活躍する女性のロールモデルを見せるイベントです。

 

本格的に理工系の女子比率を高める動きは、2005年以降から活発に。どんなイベントがあるのか?

 理工系女子を増やすための本格的な取り組みは、2005年に内閣府男女共同参画局が始めた「リコチャレ(理工チャレンジ)」がきっかけのようです。翌2006年には科学技術振興機構(JST)の「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」、2010年からは講談社の理系女子応援サービス「Rikejo(リケジョ)」、2019年からは全国ダイバーシティネットワークによる「理系をめざす女子小中高生向けの取組」などがスタートしています。これらに加え、大学や企業が独自に行う取り組みも数多くあります。

 また、理系女子に限らず、研究室訪問や講義を体験できるイベントとして、日本学術振興会の「ひらめき☆ときめきサイエンス」(2005年~)、フロムページ社の「夢ナビライブ」という高校生数万人を集めるイベント(2012年~)なども開催されています。このように、理工系分野への関心をサポートするイベントや、ロールモデルと出会える機会はこれまでも数多く行われてきました。

女子中高生向け 理系イベント11選(一部は高校生向け)
① 内閣府 男女共同参画局 リコチャレ「夏の理工チャレンジ2025」
https://www.gender.go.jp/c-challenge/rule.html
② 科学技術振興機構「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」
https://www.jst.go.jp/cpse/jyoshi/program/index.html
③ 公益財団法人山田進太郎D&I財団「Girls Meet STEM」
https://www.shinfdn.org/gms
④ 講談社「リケジョ」
https://www.rikejo.jp/
⑤ 全国ダイバーシティネットワーク「理系をめざす女子小中高生向けの取組」
https://opened.network/eventstdnts/
⑥ NPO 法人 女子中高生理工系キャリアパスプロジェクト「女子中高生夏の学校」
https://gstem-cpp.or.jp/
⑦ 一般社団法人関西科学塾コンソーシアム「女子中高生のための関西科学塾」 
https://www.kansai-kj.org/
⑧ 日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」 
https://www.jsps.go.jp/j-hirameki/
⑨ フロムページ社「夢ナビライブ」 
https://liveweb.yumenavi.info/
⑩ 国立大学56国立大学56工学系学部長会議
https://www.mirai-kougaku.jp/index-testB.php
⑪ 八大学工学系連合会
https://8uea.org/

 

山田進太郎D&I財団、2025年度から体験プログラム参画団体が一気に拡大。参画団体は、112社・31大学・8高専へ

 これまでも多くの取り組みが行われてきましたが、日本の大学における理工系学部の女子比率は、少しずつ上昇しているものの、世界と比べるとまだ低い状況です。そんな中、2021年に設立された公益財団法人山田進太郎D&I財団は、奨学助成金事業から始まり、2024年度からは「Girls Meet STEM」事業として女子中高生向けのSTEM領域のツアー形式の体験プログラムを新たに提供しています。初年度は16社・24大学が参加し、のべ2000名強の女子中高生が体験しました。

 2025年度の参画団体は、112社・31大学・8高専と一気に拡大しており、体験プログラムの受付も2025年5月21日から始まっています。新たに花王、トヨタ自動車、楽天グループ、ロッテ、関西電力、積水ハウスなども参画し、多様なプログラムから自分に合ったものを選ぶことができます。

 今後は、大学や企業で独自に行われているイベントも「Girls Meet STEM」内で申し込めるようになれば、利用者にとってさらに参加しやすくなり、参加者がさらに拡大するのでないかと予測されます。

2025年度「Girls Meet STEM」参画大学・高専
●国立14大学/岩手大学、東北大学(DEI推進センター)、筑波大学、お茶の水女子大学、横浜国立大学、金沢大学(ダイバーシティ推進機構)、信州大学、山梨大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学、佐賀大学、熊本大学、宮崎大学
●公立2大学/滋賀県立大学、北九州市立大学
●私立15大学/八戸工業大学、青山学院大学、学習院大学、慶應義塾大学、芝浦工業大学、上智大学、帝京大学、日本大学、東京女子大学、東京薬科大学、東京理科大学、法政大学、大阪産業大学、武庫川女子大学、安田女子大学
●高専8校/茨城高専、国際高専、近大高専、舞鶴高専、明石高専、奈良高専、神山まるごと高専、弓削商船高専

希望者だけでなく学年全員に参加してもらう、学校単位受付のSTEM女子イベント「Girls Meet STEM for School」初開催 東洋英和女学院中学部3年生が参加

 これまでに行われてきた女子向けイベントのほとんどは、希望者が自ら参加する形式だったため、文理選択で迷っている人や、理系も少し視野に入れている人が主な参加者となっていました。そうすると、そもそも理系を全く考えていなかった生徒にとっては、新たな気づきやきっかけになりにくいという課題もありました。

 この点を補い、より多くの中高生がSTEM領域に触れる機会を作ろうと考えられたのが、山田進太郎D&I財団による「Girls Meet STEM for School」です。これは学校単位で参加できるプログラムで、2025年度からスタートしました。初回は、アサヒグループホールディングス、STORES、日本IBM、NEC、MIXIの5社がプログラムを提供し、東洋英和女学院中学部3年生202名全員が参加しました。

 参加者から寄せられた質問は、中学3年生でまだ文理選択前ということもあり、「好きな教科や苦手な教科を、文理選択の際にどのように考えて決めたのか」といった内容が多く見られました。そのほかにも、「どのような理由で大学の学部を選んだのか」や、「今の会社を選んだ理由は何か」など、進学や就職の選択に関する質問が多く寄せられていました。以下、参加した生徒からのコメントです。
 
「エンジニアという職業についてはかっこいいけど、難しそう、遠い存在というイメージを抱いていた。お話を聞いて、避けてきたプログラミングも前向きに取り組んでみたいと思った。」

「私はもともと理系に進もうか迷っていたのですが、女性もこうやって活躍している人がたくさんいるって知って、すごく勇気をもらいました。」

「これまでエンジニアという職業には、バリバリ数学を使う、きつい、AIを突き詰める人というイメージがあったが、今回の企業訪問で、一口にエンジニアと言ってもアプリやゲームの開発に携わるエンジニアもあれば、カスタマーサービス領域で活躍するエンジニアもある。業務領域が多岐に渡ることを実感できた。」

「今回のプログラムで社員の方のお話を伺って、途中での方向転換も可能ということがわかったので、理系目指してみようかな、という気持ちになった。」

「エンジニアには馴染みがなく、堅苦しいイメージを持っていた。社員の方々が楽しく働いている姿を見て、エンジニアに対する堅苦しいイメージはなくなった」

「理系の分野って難しそうだなって思ってたけど、話を聞いて“楽しそう”とか“かっこいい”と思えるところがあって、考えが変わりました。」

「プログラム参加前は、理系の人が多い職場ということから、なんとなく堅いイメージを抱いていた。しかし、実際は和気あいあいとした雰囲気でみんな仲が良さそうだった。」

「実際に働いてる方の話がすごくリアルで、こんなふうに自分も働けたらいいなって思いました。」

「今回参加してみて、興味が薄い分野・興味がない分野だとしても調べてみたり足を運んだりしていろいろな経験を積むことで、自分の可能性を広げられるのではないかと思った。」

体験プログラムがバラバラになっていて、知らない人が多すぎるのではないか?定員が少なすぎて参加できないのではないか?

 今回、理系女子の理解促進を目的とした体験プログラムについて改めて調べたところ、非常に多くのプログラムが存在することが分かりました。プログラムをまとめて紹介しているWebサイトもありますが、大学や企業、自治体、協会などが個別に実施しているイベントも多く、なかなか発見しづらいケースもあるようです。また、申し込みを試みても、定員が少なすぎて参加できない例も多く見受けられます。

 そういう意味では、今年から一気に拡大した「Girls Meet STEM」は、参画団体が増えたことで参加できる人数も大幅に増えています。申込みをする女子中高生や保護者も分かりやすいのではないかと思います。

 大学の理工系学部に進学する女子は、1990年代までは極端に少ない状況でした。これを考えると、現在の中高生の母親や祖母の多くが理系出身ではなく、家庭内で理系進学への理解が得にくい環境になっている可能性があります。今後、イベントの定員に余裕ができれば、保護者も含めて参加できる機会が増え、少しずつ「ジェンダーバイアス」も解消されていくのではないでしょうか。来年度以降、さらに参画団体や取り組みが増え、理系女子が増えていけば、大学の理工系学部における女子比率も大きく改善していくと予想されます。

※グラフは文部科学省「学校基本調査」よりUS進学総合研究所が作成

 

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。