東京工業大学、山形大学、ハーバード大学の共同研究グループは、手足を形作るメカニズム「指間細胞死」に、「酸素」が重要な役割を果たしていることを明らかにした。
鳥類や哺乳類などの羊膜類では、指の間の細胞が細胞死によって取り除かれることで手足が形作られる。カエルやイモリなどの両生類では起こらない、この「指間細胞死」の仕組みが、羊膜類ではなぜ出現したのか、これまで解き明かされてこなかった。
研究グループは、多くの両生類が幼生期に水棲であることに着目した。手足が形作られる時期、両生類は水中にわずかに溶けた酸素を使って呼吸を行う。一方、ニワトリのような卵の中で発生する胚や、マウスやヒトのような哺乳類の胚の場合は、卵の中の血管や胎盤を介して、大気中の酸素を効率よく取り込むことができる。
そこで、幼生期に陸棲である珍しいカエル、コキコヤスガエルで解析を行った。大気からの酸素を得て呼吸するコキコヤスガエルの幼生では、面白いことに、足の指間で細胞死を起こしている細胞が確認されたのだ。
ここから、酸素と指間細胞死の関係を解明するための実験を始めた研究グループは、足に水かきを持つアフリカツメガエルの幼生を高濃度の酸素環境で飼育すると、本来起こらないはずの細胞死が起こることを発見した。また、指の間の血管(すなわち酸素の供給源)を増やした幼生でも、細胞死が起こることがわかった。さらに、指間細胞死のプロセスには、指間で活性酸素種の産生が必要であることも見出された。
この成果は、進化の過程で、生物の陸上進出に伴う環境変化(すなわち高濃度の酸素に曝されるようになったこと)が、「指間細胞死」という新たなメカニズムを誕生させたことを示唆したものといえる。