生物医学的知識はこれまで、精神疾患に対する差別や偏見を軽減せず、増長させると信じられてきたが、東京大学大学院総合文化研究科進化認知科学研究センターの小塩靖崇特任研究員らのグループが実施した追跡調査で差別や偏見を緩和させることが分かった。研究グループは今回の知見が教育現場で応用されることを期待している。
東京大学によると、研究グループは平均年齢22歳の一般人179人を精神疾患に関する生物医学的内容と心理社会的な内容の講義を受ける2つのグループに無作為で分け、10分間の講義を実施、約1年間にわたって教育効果を追跡した。
生物医学的内容の講義では精神疾患の原因が脳にあり、神経伝達物質のアンバランスなどが不調を引き起こしていることを教えた。心理社会的内容の講義では精神疾患は4~5人に1人が生涯のうちに発症することや、回復へのメッセージなどを伝えた。
その結果、両グループとも精神疾患に対する差別や偏見が軽減されていることが分かった。さらに、男性より女性、21~57歳の成人より15~18歳の若者で効果が大きいことも明らかになった。
医学界ではこれまで、専門家合意で生物医学的知識が精神疾患に対する差別や偏見を増長させると考えられてきたが、治療メカニズムなど生物医学的知識の教育が差別や偏見を軽減したとする研究もあり、議論が続いていた。