人類にとって極めて重要な水の構造をめぐっては、1世紀以上にわたって論争が続いてきた。4℃で密度が最大になるなど、他の液体にはない様々な特異な性質を示すことが知られる水の異常性の起源が、幅広い連続的な分布を持つ構造によるとする「連続性モデル」(ポープルらが提唱)と、2つの成分からなる構造によるとする「混合モデル」(レントゲン、ポーリングらが提唱)の間で、直接的証拠が存在しなかったためだ。
しかし今回、東京大学 生産技術研究所のグループが、この長年の未解決問題に決着をつける証拠を見出した。一般的な水モデルのシミュレーションと最新のX線散乱実験データの詳細な解析により、水の構造因子には、見かけ上の「一つ目の回折ピーク」の中に、2つのピークが隠れていることを発見したのである。
隠れたピークの1つは、水の中に形成される正四面体構造に関連した密度波に起因したピークで、もう1つのピークは、より乱れた構造に関係した密度波から生じているものだという。これは、水の中に規則的な構造と乱雑な構造の2種類の構造が存在することを強く支持する結果だ。
本成果は、水が2つの状態の共存状態であるという二状態モデルに基づく現象論の妥当性を示し、水の特異性の構造的起源をめぐる長年の議論に終止符を打つと期待されるとともに、純粋な水だけでなく、電解質溶液、生体内の水などの様々な系の水構造の理解に資することで、水に関連した分野に大きく波及するものと考えられる。