理論上最大となる100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する光触媒の開発に成功したと、新エネルギー・産業技術総合開発機構、人工光合成化学プロセス技術研究組合、信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所の共同研究グループが発表した。
太陽光エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解することができれば、水素をクリーンに製造することができる。このためには、太陽光エネルギー変換効率を向上させる光触媒の開発が必要だが、これまでに開発された光触媒では量子収率が50%に達するものすらほとんど報告がなかった。
本研究では、代表的な酸化物光触媒の一つであるSrTiO3(Alドープ)を用い、フラックス法により粒子形状を制御して特定の結晶面を露出させた上で、光電着法により異なる特定の結晶表面に水素生成助触媒(Rh/Cr2O3)と酸素生成助触媒(CoOOH)をそれぞれ別々に担持した。従来の光触媒では、電子と正孔の再結合が起こることが量子収率低下の原因となっていたが、本構造では、半導体微粒子内の電位勾配により、励起された電子と正孔がそれぞれの助触媒に選択的に移動するため、電子と正孔が空間的に分離され、再結合がほぼ完全に抑えられるという。その結果、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率での水分解が達成された。
光エネルギー変換の最も重要な要素は光励起された電子と正孔を一定の方向に移動させることであり、本研究で開発した光触媒はそれをモデル化したものとも言える。今回用いたSrTiO3はバンドギャップが大きく紫外光しか利用できないが、よりバンドギャップが小さく可視領域の波長の光を吸収する光触媒においても今回見出した触媒設計指針を応用することで、太陽光エネルギー変換効率の向上が期待できるという。
論文情報:【Nature】Photocatalytic water splitting with a quantum efficiency of almost unity