順天堂大学医学部の野田愛特任准教授と谷川武教授らの研究グループが英国ロンドンで働く公務員を対象とした大規模調査のデータを分析したところ、ポジティブな心理状態(心理的ウェルビーイング※)の要素「人生における意味や目的」が高齢男性の動脈硬化を抑制し、その効果が5年後も継続することを突き止めた。
順天堂大学によると、研究グループはロンドンで1985年から継続調査が進んでいる公務員の追跡調査のデータから、動脈硬化を表す指標の大動脈脈波伝播速度などを使ってポジティブな心理状態が循環器疾患にどう影響しているのかを分析した。心理状態の評価については、CASP-19(世界的に用いられている心理的ウェルビーイングを評価する自記式質問紙)を用いた。
2007~2009年の調査時点で脳血管疾患や心血管疾患がなく、5年後の追跡調査を受けた平均年齢65.3歳の男女約4,800人のうち、男性は人生における意味や目的を感じる状態を表すポジティブな心理状態が大動脈脈波伝播速度を低く抑え、循環器疾患の発生リスクを抑制していることが分かった。その傾向は5年後の追跡調査でも継続している。しかし、女性に同様の傾向はみられなかった。
快楽を感じる状態を示す指標では、男女とも大動脈脈波伝播速度との関係を示すデータを得られなかった。研究グループは高齢男性で快楽を感じる状態より人生における意味や目的を感じる状態が動脈硬化抑制に効果を持つとみている。
※CASP-19は心理的ウェルビーイングを「人生の喜びや楽しみ」、「コントロール」、「自律性」、「自己実現」の4つの領域に定義している。今回の研究では、 「人生の喜びや楽しみ」の項目は、へドニア・ウェルビーイング(「快楽」を感じる状態)の指標として用い、他の3つの領域の項目はユーダイモニア・ウェルビーイング(「人生における意味・目的」を感じる状態)の指標として用いている。
論文情報:【Hypertension】Psychological Wellbeing and Aortic Stiffness: Longitudinal Study