母体の子宮内膜上皮で特定遺伝子の発現量が低下すると着床不全を起こすことを、東京医科歯科大学大学院疾患モデル動物解析学分野の平手良和講師、金井正美教授ら、および東京大学、フランスマルセーユ大学の共同研究グループが発表。英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
世界初の体外受精の成功から約40年、現在では27人に1人が体外受精によって誕生するなど、我が国の不妊に対する生殖補助医療はめざましい発展を遂げている。体外受精では、培養液の中で精子と卵子を受精させ、分割した受精卵を子宮の中に戻す胚移植が行われるが、子宮内膜が胚を受け入れるメカニズムについてはいまだ不明な点が多く、2012年の胚移植治療数約30万人に対し、その成功率は30%に留まるという。良好な胚を子宮に戻しても妊娠が成立しない「着床不全」については有効な母体の診断法や治療法がなく、早急な改善が求められていた。
同研究グループは、卵巣、子宮内膜上皮、血管に発現する「Sox17遺伝子」に注目。この遺伝子を片方の染色体で欠損させたヘテロ変異マ ウスを作製して解析したところ、排卵・受精・胚盤胞形成・卵管や子宮の形態などは正常だったのに対し、着床数の著しい減少がみられた。これにより、Sox17遺伝子が子宮への胚の着床を左右する重要な役割を担っていることが分かった。
この結果は、Sox17遺伝子の母側のヘテロ変異が胚の子宮への着床に重要であることを世界で初めて明らかにしたものとなる。妊娠期間の長さは異なるものの、ヒトとマウスでは母体のホルモン制御や着床に至る胚の成長プロセスが非常に似ているという。今後はヒトゲノム解析と照合させて詳細な解析をしていくことで、不妊治療の改善に向けた新たな治療法の開発につながることが期待される。