大学に始まり、最近は高等学校においても関心の高まるアクティブラーニング。次期学習指導要領では小・中学校でも目玉とされるとともに、2020年以降の新しい大学入試で試される力の育成にもつながるのではないかと注目が集まります。様々な実践や理論が紹介される中で、「アクティブラーニングはあくまでも学習論、しかも教科の学びと一体的に捉えることが肝心」と語られるのは、講演会やシンポジウムに、高校現場でのアドバイスにと引っ張りだこの京都大学高等教育研究開発推進センター教授の溝上慎一先生。≪大学で力強く学ぶための、その先の社会で力強く生きていくための≫アクティブラーニングについて、お聞きしました。

京都大学高等教育研究開発推進センター教育学研究科教授 溝上 慎一先生

京都大学高等教育研究開発推進センター教育学研究科教授 溝上 慎一先生

なぜアクティブラーニング(AL)なのか

 「他の人の意見を聞くことで授業が楽しくなり、勉強にも前向きになれる」「視野が広がり、自分の考えが深まった」「自分で考えることが増えて、授業の理解も深まった」「他人に説明することで自分の考えが明確になった」。 「友人から教えられたことは記憶に残りやすい」「コミュニケーション力が付き、プレゼンも上手になるのでは」。これらは昨春から顧問として関わっている首都圏の私立の中学、高等学校 ※1での ALの授業に参加した生徒の感想です。

 AL、AL型授業と呼ばれるものには様々な形態がありますが、基本的には講義を一方的に聞くのではなく、ペアワークやグループワークも取り入れて、学んだ知識についての理解や自分なりの意見を発表し、相手の理解や考え方も聞いて理解を深める学び、それを促すような授業形態です ※2。個人的学習から社会的学習、協働学習へ、授業の主役という視点からは、教える側から学習する側への転換、学習パラダイムへの転換を伴うものです。

 近年、このような ALに注目が集まる背景の一つには、情報化の進展によって、専門家でなくてもインターネット等を通じて様々な知識にアクセスできるようになったことがあげられます。東京大学の吉見俊哉先生が、《検索型の知識基盤社会》と呼ばれるように、ここではこれまで同様、知識を蓄えることは重要ですが、それだけでなく、知識をどのように活用できるか、それを介してどれだけ他者や集団の中で活動できるか、知識同志を統合したりマネジメントしたりできるか、少し難しく言えば、《情報・知識リテラシー》を持っているかが問われるのです。

 ALは、近年高まりつつある教育の社会的機能の見直し、つまり学校や大学はもっと社会が求める力の養成に力を入れるべきだという気運の高まりにも応えます。本来、社会へ出るための準備教育だった学校や大学が、その成熟に伴って学ぶこと自体が目的化されたり、地域や家庭の教育力の低下や、豊かさによる社会の求心力、《構造的求心性》の衰えによって、社会のニーズとズレてきました。とりわけ就職や離転職・仕事の仕方、社会生活の過ごし方といった学校から仕事・社会への移行(トランジション:transition)が深刻な問題になってきましたから、大学や高校の教育機能の修正、再構築が求められるようになったのです。

 この点、自ら発信するとともに、人の意見を聞きコミュニケーションを図るという ALの方法、手法は、知識の活用をはじめ、異なるバックグランドを持つ他者を理解する力など、これからの社会が求める技能や態度(能力)を身につけるための有力なアプローチですし、手法自体が社会で行われていることそのものなのです。

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京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

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