順天堂大学の研究グループは、運動後の「多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma:PRP)」由来のエクソソームが、慢性期脳梗塞の神経再生や機能回復を促進することを動物実験で確認した。
近年、細胞間コミュニケーションを担う「エクソソームを含む細胞外小胞(Extracellular Vesicles: EVs)」による再生医療や神経疾患治療への応用が期待されている。これまでに、幹細胞由来EVsによる脳梗塞後の再生効果に関する報告はあったが、本研究グループは、採取・保存が容易で組織修復作用が期待されるPRP由来のEVsに注目した。
PRPは、血小板を多く含む血漿を指し、患部への注射により組織の再生を促すことから整形外科領域では既に臨床応用されている。さらに研究グループは、運動がもたらす生理的変化にも着目し、「運動を行ったラット」から採取したPRP由来EVs(aPRP-EVs)が脳梗塞後の神経回復にどのような効果を持つかを検証した。
まず、成分分析の結果、aPRP-EVsは、運動をしていないラットから採取したPRP由来EVsに比べて、再生に関与するとされるタンパク質の発現が有意に高いことが認められた。
また、脳梗塞病態を模倣した神経細胞にaPRP-EVsを添加すると、神経細胞の生存率や神経軸索の成長が改善された。慢性期脳梗塞モデルラットに投与した場合は、運動・神経機能が著しく回復し、脳梗塞体積も縮小することが見出された。
作用メカニズムを解析したところ、TGF-β/SMAD経路の活性化とカルシウムシグナルの抑制を通じて、神経再生を促進するとともに興奮毒性による神経細胞死を防ぐことが判明した。
aPRP-EVsは神経再生と神経保護の双方を兼ね備え、既存の幹細胞由来EVsと比較しても低コストかつ臨床応用性に優れている。今後は、ヒトでの安全性・有効性の検証や投与条件の探索などヒトへの応用に向けた臨床研究が求められるが、脳梗塞後の治療にも有望な新しい再生医療戦略として期待が高まる。