山極:ありがとうございます。アメリカの大学と日本の大学の一番大きな違いは、彼らは個人主義からスタートしているため一人ひとりの学生を育てることに長けている点。日本はクラス単位で、いかに平等に教育資源を配分するかが念頭にあり、個人は二の次にされている。最近、ハーバード大学のWEB サイトには、日本の大学ではイメージダウンにつながりかねないと敬遠されるような情報まで掲出されていた。アメリカの大学では選ぶのは学生ということが徹底されていて、優れている点を誇ったり、劣っている点を恥ずかしがって隠したりするのではなく、情報はすべてきちんと公表するというのが基本的な考え方だ。日本は親切すぎて、個人の能力を育てるまでには至っていないのではないだろうか。
髙田直芳(埼玉県立浦和第一女子高等学校):この春までは教育委員会にいて、高校入試改革などに携わってきた。ちなみに来春の埼玉県の高校入試では中学生の学力差に配慮して、5教科のうち、英・数については問題を2種類とする。これは今回の大学入試改革と軌を一にすることで生徒の考える力、表現する力をより一層しっかり見ようということ。本校は県内でトップの女子校で全人教育にしっかり取り組んでいるが、女子校ゆえか生徒がこぢんまりとまとまっているのが少し物足りない。何とか殻を破り、もっと大きく羽ばたいてほしいと思っている。
そのために様々な取組を行っている。SSH は3期目で今年は最終年度となるが、今年からはSGHにも指定された。「この4月から女性活躍推進法が施行され、ますます女性の活躍が期待されている。女性とか男性といった性別に関係なく意欲と能力があれば誰でも活躍できる社会を、女性目線で実現しよう!」と発破をかけている。
女子校だからか、生徒の進路相談では両親、特に母親の意向を酌む傾向がある。生徒はみな母親の期待に応え続けるいい子でありたいし、親は手元から子どもを手放したがらない。上手に子離れしてもらうよう、親へも働きかけている。京都大学へは現浪それぞれ1名ずつ進学した。現役は昨年トップの生徒で、東京大学ではなく京都大学を選んだ。
京都大学には、自由の学風や京都の街そのものの魅力に憧れるコアなファンがいる。昨年度、東京大学の推薦には浪人生一人が手を挙げ合格した。SSH 生で日本学生科学賞で優秀賞を取り、日本代表としてISEF へも行った生徒だが、文転して東京大学へ進んだ。
山極:STAP 細胞事件で、リケジョブームに陰りが出てきたが、理系の考え方を持った女子の活躍が求められていることに変わりはない。しかし京都大学では女子の割合が増えない。特に工学分野でそれが顕著だ。アメリカでは数学者が社会で大活躍している。給与も高い。日本では研究者のイメージが強く、実社会とも乖離しているように思われることが多く、企業でも人材として一番不足している。しかし、数理的能力は経済だけでなく、デザイン、統計、モデル化など、いろいろな分野に応用できる。大学としては、中学、高校段階で、自分は理系に向いてないと決めつけられてしまうのを恐れている。
高田:本校では55から60%は理系だ。
吉野明(鷗友学園女子高等学校):女性が理系を不得意に思わないようにすることはとても大切だ。今の教育は形式的男女平等で、発達段階の違いを無視して、一様にやらせているところが問題だと思う。たとえば、小5の算数では比や割合が出てくるが、この時期、女子は言語の抽象化能力が伸びて、コミュニケーション力がさらに発達していく。男子は数式的な抽象化能力が伸びて、比や割合が頭に入ってきやすく、学校ではそれに合わせてどんどん進む。そのため、数式的な抽象化能力が後から伸びてくる女子は、「やっぱり算数不得意なのね」「私もそうだったから」で終わってしまうことが圧倒的に多い。
このあたりを変えていかないと、なかなか女性の理系の能力は伸ばせないと思う。本校では中1の理科は全て生物。目に見え、触れることのできる具体的なものを対象にすることで理科を好きになると、中2、中3で、抽象度の高い物理や化学にも無理なく入っていける。本校も女子校でありながら理系の方がやや多いのは、このように発達段階に合わせたカリキュラムを組んでいるからではないだろうか。