校長、わが校と大学について語る
森上:それでは高校側から自校の現状や、最近特に力を入れている取組、大学、京都大学への要望などをどうぞ。
宮本久也(都立西高校):本校は生徒が自由で伸び伸びと様々なことに取り組んでおり、かつての都立高の良さを残している数少ない学校と言われている。
現在、日本の大学は改革の只中にあるが、京都大学にはさらに「らしさ」を打ち出してもらいたい。というのも、本校の生徒を見ていると、中身による大学選びが、今後、主流になってくると思われるからだ。生徒一人当たりの受験校数はすでに極端に減り、かつてのように6、7校受ける者はほとんどいない。2校か1校しか受験しない者も増えていて、現役合格にも必ずしもこだわっていない。自分の活かせる大学を探していて、大学を見る目は厳しくなってきている。
武内彰(都立日比谷高校):大学へ入ることを目的にするのではなく、その先の学問のために力を蓄え、社会へ出て力を発揮してほしいと考えている。授業で心に火をつけ、自ら進んで学ぶ姿勢を育てたい。もちろん簡単なことではないから、SSHやSGHアソシエイトを活用し、探究活動を日常的に行うとともに、2年生では海外研修も行い、世界の最先端の研究を見、その息吹を感じ取ってもらっている。生徒には、社会貢献、というより人類貢献のできる存在になってほしい。
大野弘(都立戸山高校):本校の誇りは《自主自立》で、教え込むことなく、生徒自らが考え、勉強する姿勢を作ってもらうことに全力を傾けている。都立では最初にSSHの指定を受け、今夏にはJST(科学技術振興機構)の理事長賞※4もいただいた。研究志向の生徒も増えていて、早慶よりは旧帝大を選ぶ傾向がある。北海道や東北へ行く生徒に比べると京都大学に行く生徒はまだまだ少ないから、これまで以上に生徒に目を向けさせる努力をしてほしい。
岸田裕二(都立国立高校):多摩地区にあるということでやはり国公立志向が強い。また北海道大学に16名行くというように、東京に留まらず地方の国公立に出て行く生徒が多いのは、山極先生の頃からの伝統だろうか。
文化祭が特に有名で、毎年2日間で1万人以上の来客がある。一昨年は3年生のクラス演技の9時20分からの第一公演に、チケットを求めて4時半から人が並んだため、近所からクレームが寄せられた。それを生徒に伝えると、抽選制にすべく3年生全員でシミュレーションを行うなど、日頃から、何事も自分たちで考え解決しようとする。この辺りも特色入試では見てもらいたい。
平野正美(埼玉県立浦和第一女子高校):全国的にも珍しい公立女子高だ。女性の輝く社会が期待されているが、着任して以来、本校の内向きな側面を改革したいと考えている。高校までの女子は心身ともに発達が早く逞しい点では共学校と変わらないが、大学進学に対しては、有名私学の女子校に比べてなぜか消極的だ。公立校の女子校はいずれも伝統校であり良妻賢母を求める伝統が残っている上に、教員自体が男子ほどには高い目標を与えていないように思う。北関東の3県に公立の別学校が残っているが、いずれも歴史のある学校で伝統から脱却するのは容易ではない。
とは言え、それが生徒のポテンシャルを押し殺していては問題だから、その殻を破るべく、少しでも生徒の目を外に向けようと、都立西高校の企画に参加したり、SSHの女子校6校でお茶の水女子大学に年2回集まり、情報交換するとともに院生の指導を受けたりしている。窓と門とは言い得て妙だと思った。
山極:ありがとうございます。
杉山剛士(埼玉県立浦和高校):本校も先週末の文化祭には、1万2000人が来場した。男子校で、行事はすべて雨天決行。強歩大会では50㎞を7時間以内で歩く。校是は無理難題に挑戦せよ、だ。世の中は無理難題ばかりだから、高校時代には心身を鍛え、それを乗り越える訓練をするなど、タフな生徒を育てることをモットーにしている。SGHの指定も受け、海外へも積極的に出て、多様で異質な他者に出会うよう後押ししている。将来は、世界のどこかを支える人間、それが卒業生の若田光一さんのように宇宙であってもいいが、困った問題が起きた時、「お前に代われる人間はいない」と言われるような人間になってほしい。
教養主義を貫き、幅広く学ぶことを薦めているが、京都大学へ行ったある卒業生は、「高校時代、リベラルアーツを学んでいたつもりだったが、京都大学へ来てみるとその次元が違う」と熱く語っていた。京都大学はその懐の広さが魅力だから、今後も伝統の教養教育の充実を図っていってほしいし、高校教育、大学教育にダイバーシティーをどう取り入れるかについてもご教授いただきたい。