森上:一通りみなさんのお話を聞き終わって、総長から何かコメントは?

山極:京都大学は最初から尖った学生だけを求めているわけではない。大学へ入っていろいろ試して、その中から自分の進む道を見つけてもらうのも一つの方法だ。大学院は学部以上に全国区で、私のいた研究室などは文系からも来ていたから、大学院からでも進路を変えられるし、そういった自分を変えるチャンスは何回かある。京都は関東出身者からすると外国のようなところがあって、その文化は体験してみなければわからない。若い時には、自分の体に染みついた環境から離れて、異文化を体験することが大事だと思う。そのためには海外へ出ることも一つの選択肢だが、京都も関東の人にとっては一種の外国かもしれない。

※4:2015年8月6日、平成21~24年度、26年度、27年度指定校等から選出。
※5:総合的な学習の時間に,生徒ひとりひとりが自分なりにテーマを見つけ,1年生から約2年半をかけて個別に調査・研究をしてまとめたものの中から,最も優れた作品に与えられる。平成17年から(人文科学・社会科学・自然科学・芸術の4分野)に分かれて行われる。毎年『千葉高校ノーベル賞論叢』という冊子も作成する。
※6:1871年、加賀藩の洋学・砲術・海洋学の講師から小石川造兵司頭になる。
※7:ボートレース、運動会、中間試験を経て、5月末に部活の勧誘、その後、学年旅行、7月には水泳合宿がある。

 

進路選択を語る

1:生徒の自立について考える

山極:進路選択では保護者の意見、特に女子校ではその影響が強いという話が出たが、大学の入学式にもたくさんの保護者が参加される。卒業式にも、学位授与式にも保護者が来られる。私たちの時代とはずいぶん違って、保護者の期待が進路に大きく影響する時代なのだろうか。開成では、進路は生徒の希望に任せるとのことだが、そこにもすでに親の意向は反映しているのだろうか。先生方のご意見をお聞きしたい。

吉野:中学へ入ってきたばかりの生徒の価値観は、ほとんど親に与えられたものだ。「勉強していればいい」「点数が取れればいい」「点数が悪いと叱られる」、「親の寂しい顔を見たくないから頑張って勉強しなくては」、などと考え生活してきたのだからやむをえないが、そのままではいつまでたっても自立できない。そこで本校では、勉強以前の「生徒指導のカリキュラム」を作り、親の作ってきた枠組み、親から与えられた価値観を崩して枠の外の多様な価値観を一人ひとりに見せるように努力している。縦の関係を一旦断ち切り、横の関係、仲間との関係の中で相互に尊重し合うことによって自分の存在価値に気づかせ、自己肯定感を持てるようにする。6年あればこそ、それが可能だと私は思っている。これをしておかないと、いろいろなところに親の影響がおよび、最終的には親の決めた進路を選ぶようになってしまう。80%以上の生徒が学問の中身で大学を選ぶと申し上げたが、同じ統計で親の意見に従うと答えたのは一人だった。女子校であっても、やりたいことのためなら地方へ出ることを厭わない生徒が増えているひとつの原因がそこにあると思う。

山極:素晴らしいですね。

森上:男子校はどうでしょうか?

杉山:親の問題、自立の問題はわれわれにとっても真剣に考えねばならない問題だ。大阪のある有名私大が来年度から、出欠や成績などの情報を保護者に提供するシステムを導入したという。若者の反応として、親にお金を出してもらっているから当然だという肯定的なものと、息抜きができなくなるだけでなく、自立が遅れてしまうという否定的なものとが紹介されていた。

本校では、自立の手掛かりは仲間と接することで自分を知り、その中で自分を鍛え、磨く中で得られると考えている。三者面談は一切行わず、かわりに生徒との二者面談を年5、6回実施する。親がいると、どうしてもその力学が強く働くからだ。生徒には自分の進路を納得してもらうために親と対峙するのもやむをえないと話し、親には全体の保護者会で、できるだけ情報を提供するとともに、生徒は仲間とのダイナミズムの中で育つのだから、あまり口出しせず見守ってほしいと伝えている。親の言うことを聞いていれば、とりあえず大学へは進めるが、その後の20年、30年の人生を逞しく生きていけるとは限らないからと。
柳沢:入学式、卒業式はともかく、その間の教育の場面に親が出入りするのは好ましくないと考えている。本校はある意味でバンカラな学校だから、子どもは入学後からすぐに親離れを始める。部活に入れば楽しいし、そこで先輩からいろいろな話を聞き、本もいろいろ読む。ただ親、中でも母親の方が子離れできない場合が多い。特に男子は、反抗期になると家ではしゃべらなくなるから、よけい寂しくなるのだろう。

そこで、学年を問わない任意の保護者会が地域ごとにできていて、そこで母同士が情報交換できるようになっている。たとえば中1の親なら、ギャングエイジも高校へ入る頃には終わるからと、高校生の親から言われれば安心する。他の学校のママ友に愚痴って、「開成に行っているからいいじゃない」で済まされてしまうこともないと、とても好評だ。最近では、女性のスクールカウンセラーも増強し、母親にできるだけ対応できるようにしている。授業参観がなく、参加できるのは運動会と文化祭と卒業式だけなので、情報ルートの多様化に努めている。

風間:合宿行事は教員には、負担になるかもしれないが、中1は6月に一泊二日のオリエンテーションキャンプに連れて行っている。教室を離れることで教室にいる時とはまったく違う学びができ、行く前と後とでは生徒の顔も言動も変わってくる。友だち同士の交わりができるようになって、親も自分から離れていくのがわかるとおっしゃる。中2の夏にはごてんば教室で宿泊研修も行う。
森上:山極先生は、世界のゴリラ研究の第一人者として知られるが、ゴリラの子育てについて一言。
山極:ゴリラの子離れはじつに鮮やか。母親は子どもが乳を吸わなくなったら父親に預け、すっかり無縁になる。

森上:父ゴリラとの関係は。

山極:ずっと続く。ただし、メスは思春期になると父親を煙たがって出て行く。後で仲直りはするが。オスは父親との葛藤が難しい。人間も男の子の方が問題かもしれない。校長先生方のお話は大学にとっても無縁ではない。

鈴木:生徒が登校できなくなる多くのケースでは、親子関係に何らかのトラブルがあるとか、親子の間で話し合いができていない。

大野:多くの都立高校でも同様ではないかと思うが、中学までは高校受験もあり子どもの自立に直面しなかった母親が、高校になって、上手に子離れできずに葛藤する。生徒の方も、一般的には葛藤しながらも何とか乗り越えるが、本校でもやはり3%ほどがそれに困難を感じている。葛藤のあるのは当たり前で、喧嘩してもいいから気にしないようにということをどう伝えていったらいいだろうか。

森上:男女差はあるか?

大野:ない。

宮本:今の子どもがかわいそうなのは、核家族で逃げ場のないこと。祖父母がいれば庇ってもらったり、そこへ逃げたりできるが、どうしても真正面から向き合ってしまう。

山極:近所との付き合いもないから、上の世代の経験知を学ぶ機会がない。

宮本:本校では保護者と校長が語る会を年2回ほど行っている。校長室へ自由に来ていただいて、10人ぐらいの教員も入れて一人10分から15分、鐘が鳴るまで私がグルグル回る。今は250人ぐらい、全校生徒の25%に当たる保護者が来られる。

風間:私は保護者対象に聖書研究会をほぼ毎月行っている。聖書学者ではないが、その機会に生命科学の話もする。自由参加だが、面白いからと毎回100人余の保護者が来る。1時間聖書の話をし、その後、月毎に学年を決めて保護者に残っていただく。昨日もほぼ40名の中1の保護者が残った。全員が一言ずつ話されるので、親子関係や、親や生徒の抱えている問題を直接聞くことができる。私は毎回のように、早く子離れして、子どもで自己実現をしないでほしいと話している。少しずつ浸透してきているのではないだろうか。学校説明会でも同じようなことを言っているが、本校を偏差値で選んだのではないという保護者がだいぶ増えているようで嬉しい。

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京都大学

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