鈴木政男(千葉県立千葉高校):設立当初から県立の学校で、今年で138年目になる。藩校の時代から数えるともっと古い学校もあるが県立では最も古い。批判を受けることもあるが、大学受験のための授業はしないと言い続けてきている。県教委は8年前、附属の千葉中学校を作り、中高一貫教育校になった。中学2クラス80人、高校では6クラス240人が入学して1学年320人になる。中学では、多少、高校の内容に踏み込むことはあっても、教育課程上先取りはせず、中学の内容を深く広く学ぶ。高校では80人の内進生を10人ずつ8クラスに分ける。中高一貫生はこれまでに2期が卒業。その進路実績は、外進生と比較してほぼ同程度である。
京都大学には、昨年、院生による出前授業をお願いして、今年も10月にお願いしている。中学校でも社会人講演会と称していろいろな方をお呼びしているが、今年は本校から京都大学へ進んだ日本モンキーセンター学術部キュレーターの新宅勇太さんをお呼びした。
悩みの一つは、浦和高校ほど生徒が逞しくないこと。家庭の問題や精神的な問題で登校できなくなる生徒が一定数おり、そこまでいかないが、自分の位置を掴めない生徒がさらに何%かいる。そこを乗り越えれば逞しく成長できると思うから、学校全体にもう少し楽観的な空気が広がればいいと思っている。
特色入試に関して言えば、千葉高ノーベル賞※5なども評価の対象にしてもらえるとありがたい。
田山正人(千葉県立船橋高校):今年95年目を迎えたが、県内ではさらに古い学校が31校ある。ただ都市部で、東京に近い所では古い方だ。目下、東京の私学や、都立の中高一貫校へ受験者が抜けていく中で、どう歩留りを高めるかに腐心している。倍率は県内の中でも高い方だが、入学してきた生徒を育てることにもまだまだ課題がある。
体験を重視し、心身ともに強い生徒を育てようと行事等に熱心なのは、ここにご出席の多くの学校と同じだろう。部活加入率も高い。ただメンタルに弱い子も正直いる。
SSHの指定も受けていて、生物オリンピックで世界へ出たのが2名。東京大学等へ進んだが、このように特に尖った生徒も数年に1人はいる。一方で、課題研究等を見ていると、尖っているというほどではないが、面白い発想をする生徒もいる。そういう生徒に限って芸術活動に熱心だったり、サークルにいくつも入っていたりする。まだまだこれからだが、幅広い総合的な学力を身につけた逞しい生徒を育てていこうと考えているから、大学で鍛えてもらえるとありがたい。
時乗洋昭(神奈川県立湘南高校):神奈川では6番目の県立中学校として開校、今年で95年になる。出身者にはノーベル化学賞受賞の根岸英一先生をはじめ、有名人も多い。
ここにお集まりの多くの学校同様、学校行事を通して人を作るなど、全人教育を前面に打ち出している。神奈川の県立校では最近、部活動を縮小、制限したりして、管理型の受験教育にシフトするところが増えているが、本校だけは開校以来の、受験のための教育はしないという考え方を徹底させている。また幅広い教養を身につけさせようと、神奈川の多くの学校のように2年で文理分けをせず、1、2年は全員同じ科目を学び、2年から3年になる時にもクラス分けをしない。高3でも同じクラスの中に文系・理系志望の生徒が入り混じり、双方の話題が飛び交う。進路に関しては、細かい専門までは絞らず、大学へ入って学ぶ中から専門を見つけるという生徒が多い。大学へ入ってからさらに頑張ることのできる生徒を育てたい。
吉野明(鷗友学園女子高校):鷗友学園としては80年目だが、東京府立第一高等女学校(現・東京都立白鷗高校)の同窓会が設立した学校であり、両校の校長市川源三の教育の歴史としては100年以上の伝統がある。
自分の枠、学校の枠、そして日本の枠を超えて世界へ羽ばたけをスローガンにしている。山極総長も言われたように、教室は学校だけではない、学ぼうと思えばどこででも学べると、女子校ながら強く言っている。生徒の中には都内だけでなく愛知の男子校や今年は都立西高などへも行って学ばせていただくこともあり、京都大学への進学もこうした文脈で視野に入っている。
大学進学に関するアンケートでは、80%以上の生徒がやりたい学問や先生で選ぶとしているから、大学の先生方が学問の魅力を熱く語って下さると影響は大きい。女子生徒は、その上でさらに一対一対応を好感する。関東圏からの京都大学への進学者は今のところ13%程度のようで、東北大学、北海道大学に比べるとまだまだ少ない。さらなる多様性を生むためにも全国へ、中でも関東、東京への働きかけを強めていただきたい。
竹鼻志乃(豊島岡女子学園高校):女子裁縫専門学校からスタートして123年目。現在も毎朝5分間、全校生徒が運針をしている。女子中高の多くが高校からの受け入れを止めた今も、本校は2クラス残している。第一志望で入学する生徒ばかりではないから、まずは自分に自信を持たせるところから始めている。自信がなければチャレンジできず、ひいては女性が輝く社会の実現も遠い。社会へ出れば様々な試練が待っているだろうから、高校、大学の間は自信を持って自分の可能性を広げるチャレンジをしてほしいと思っている。
今週の土曜未来講座には、京都大学霊長類研究所の松沢哲郎先生に来ていただくことになっている。京大に進学した卒業生が、母校での講演を先生に直接お願いしてくれた。
風間晴子(女子学院高校):本校は創立145年で、今日お集まりの学校の中では一番古い。ただ歴代の校長(学院長)はお一人お一人任期が長く、私はまだ9代目。創立当初から国内外で活躍する卒業生は多いが、近年は一般的に言って、首都圏外の大学へ行こうという東京の女子は少ない。私は京都へ行って花を開かせるのもいいと思っているが、今の生徒は保護者とのつながりもとても強いので、彼らをどう説得するかは課題だ。私は50年近くICU(国際基督教大学)で過ごしたし、女子学院も私の在学当時はとても自由だったから、若い時は自由を大事にして、失敗もしなさいと伝えている。失敗することで得るものは多いからだ。京都大学は失敗を許してくれる大学だと思うので、その点もアピールしていきたい。責任を自覚した自由こそヒトを育てると思う。
柳沢幸雄(開成学園開成高校):今年で144周年。創立者は佐野鼎※6。あとを高橋是清が継ぎ初代校長となり学校としての形を整えた。私は18代目の校長で5年目になる。
1学年は中学校で300名。高校で400名、全校では2100名の生徒がいる。進路はじつに多様で、結果は校長もふたを開けてみないとわからない。6年一貫で、多くの教員はそのまま持ち上がるため学年毎に色彩が違う。6つの独立国があるという感じだ。共通するのは生徒が学校へ通うのを楽しいと感じていること。中3の全国一斉学力テストのアンケートと同じものを、6月と10月に中1から高3まで全員に対して行うが、今年の6月の中1では、「楽しくない」は一人もいなくて、「どちらかというと楽しくない」が2名だったから、生徒の大部分は遊びのような楽しさで学校に通って来ていると言ってもいい。この傾向は高2まで変わらず、否定的な回答は各学年数名以下だ。高3になると、運動会の後は受験勉強になり、「楽しくない」「どちらかというと楽しくない」がそれぞれ20数名になる。しかしそれでも1割弱で、全体としては96%以上が学校へ来るのを楽しいと思っているということになる。
そのために工夫もいろいろしている。一つが部活。同好会を含め、運動系、文化系あわせて70ととても多い。一つの部の部員数が平均30名で、ちょうど大学のゼミの規模で、同好の士の集まりである。ここが生徒にとって居心地のいい居場所となる。また中1や高1の新入生には、1学期に先輩と出会う機会を頻繁に設けている※7。憧れの先輩が出てくれば、その部活に入って学校に馴染んでいくからだ。
保護者には、生徒が学校に楽しそうに通っている限り、進級さえすれば成績を気にする必要はないと伝えている。また生徒には、自分が楽しいと思うものの中から将来の進路を見つけてほしいと話している。どこへ行きなさい、と言っても、彼らは耳を貸さない。進学先は、私が通っていたころは京都大学や東京工業大学、一橋大学などと幅広かったが、今は医学部を除くと東京大学中心で考えているようだ。