【4】長期レンジでの4つの可能性と日本の大学の未来
 国内の高等教育機関の、国内の高卒者(18歳人口)を対象とした場合の4つの可能性について検討してきたが、さらに長期レンジで対象も拡大して検討を続けたい。

 図表4は、日本の高等教育機関のさらなる可能性を座標空間化したものである。
 ◆ Y軸は、年齢軸とし、高卒者だけを対象とするか全年齢を対象とするかの軸
 ◆ X軸は、エリア軸とし、国内だけを対象とするか世界を対象とするかの軸
 ◆ Z軸は、投資対アウトカム 
 とした。

chart_04

必然的に第Ⅲ象限は、国内の高卒者を対象とするため先に述べた4つの可能性となる。

<第Ⅰ象限>世界の全年齢を対象とした高等教育機関の可能性
 第Ⅰ象限は、海外も視野に入れ、全年齢を対象とした高等教育機関を日本発で行う可能性だ。この高等教育機関の価値は、学位取得ではなく純粋な学びの価値提供が要となるであろう。世界の中でここでしか学べない内容がなければ、惹きつけることはできない。日本文化・歴史、宗教、世界にない最先端の科学技術、環境、農、福祉・介護・保育、美容そしてクールジャパン系の映画・音楽・漫画・アニメ・ドラマ・ゲーム、ファッション、クリエイティブや武道、日本料理・茶道・華道・日本舞踊などが考えられる。
 また、学び方は、人工知能とVRと同時翻訳を活用したオンラインとなるであろう。学費は、無料型から有料型、学び単位の課金型など様々な方法が発展していくだろう。

<第Ⅱ象限>の国内全年齢を対象とした高等教育機関の可能性
 第Ⅱ象限は、高校生だけでなく国内の全年齢を対象とした高等教育(大学・大学院)の可能性だ。社会人教育や生涯学習がメインとなるが、現在の社会人入学や通信教育という概念ではなく、人工知能とVRを駆使したオンライン教育が必要となるだろう。学びたい時にいつでもどこでも適切な方法で学べる仕組みへの発展がポイントになると思われる。社会人教育をターゲットとした教育機関と生涯学習をターゲットとした教育機関は全く違うニーズに対するアプローチが求められる。
 一方、アウトカムを一切提供しない「大学の場」の提供というコンセプトがあるかもしれない。キャリアに結びつかなくとも学びそのものが楽しい、教養を身に付けたい、もう一度学び直したい、居場所が欲しい、同じ学びのコミュニティーに所属したいなどのニーズへの価値提供だ。人と人との魅力的なコミュニティーの形成、魅力的な学びの場の演出によって新たな大学という「場の価値」が提供できるかもしれない。

<第Ⅳ象限>世界の高校生を対象とした高等教育機関の可能性
 第Ⅳ象限は、海外も視野に入れた高校生を対象とした高等教育機関を日本発で行う可能性だ。
 これは、オンライン型であれば、学位が取得でき世界基準で働くことができる高アウトカムが得られる高等教育機関に限られる。しかも日本でしか学べない、世界にはないという独自性が必要となる。
 もうひとつは、海外への進出である。日本型の高等教育が必要とされる国で現地法人の設置か日本の大学法人としてキャンパス展開を行う。進出した国へのカスタマイズが重要な戦略となる。世界を惹きつける日本独自のアウトカムを得ることができる高等教育機関の海外進出は、日本へのインバウンドの可能性をも探ることができる。その場合、日本で住み・学ぶために留学する価値が提供できなければ意味はない。

vol4_MV_2

 これまで、5回に渡って「大学改革の現状とその行方」について検討を進めてきた。長期レンジの未来予測やグローバルでの高等教育機関の動きを踏まえたため、現在の日本の大学の固定観念とは程遠く、絵空事のような感覚を受けた方も多いと思う。

 しかし、大学改革には相当な期間がかかること前提とすれば悠長にとらえることができないのも事実である。筆者がコンサルティング支援してきた250を超える高等教育機関では、長期レンジの予測と可能性を踏まえたグランドデザインが構想され、中期計画に沿った改革を推進している大学も存在する。

 科学技術の進化は、予測を超える社会的な変革を引き起こしていく。従って社会が必要とするアウトカムは、速いスピードで変わっていく。しかし、本質的に大学や高等教育機関に求められることは、どんな時代になっても、どんな社会に変わっても、自ら学び成長し続けることで、豊かな人生を歩むための「他にはないアウトカム」を育成することなのではないか。

 生き残りの方向性を見極めるためには、現在の大学の持てる資本(教職員力、研究力、教育力、キャンパス、施設設備、財政力)を基に、ミッション(建学の精神、教育の理念)を活かした方向性を見極め、ビジョンを構築し計画を着実に実行する必要があるのだ。

この国に世界を惹きつける高等教育機関が発展していくことを願って本稿を終えたい。

過去の『大学改革の現状とその行方』記事はこちらから

 

いよいよ、本格的な大学の淘汰時代が始まる(第1回)

 

大学淘汰を加速する新たな外圧とは(第2回)

 

世界の大学変革の兆しが、日本の大学に与える驚異とは(第3回)

 

2100年! 世界の中の日本。大学の行方は? [前編](第4回)

 

2100年! 世界の中の日本。大学の行方は? [後編](第4回)

 

日本の大学に残された4つの改革の道筋 [前編](最終回)

  1. 1
  2. 2
  3. 3

寺裏 誠司

・株式会社学び 代表取締役社長
・一般社団法人アクティブ・ラーニング協会 理事
・リクルート進学総研 客員研究員
これまで、コンサルティング支援した大学・短大・専門学校は250校以上、支援高校2,500校の実績。講演・セミナー・研修・大学非常勤講師など200件、対象3万人以上の実績を有する。
>執筆者詳細プロフィール
>株式会社学び公式HP