違う考えをもつ人を尊重し、自分の立ち位置を知る
私が大学で学んでいた1970年代には、「グローバル化」という言葉はまだありませんでした。当時よく使われた言葉は「国際化」で、島国である日本から広い世界へ飛び出し、国際社会で活躍しよう、といった意味をもっていました。その後、進んだ技術や産業を世界全体で共有するといった意味合いでこの言葉が使われるようになりました。しかし今や「地球とはみんなで大切にすべき有限のもの」という認識の下、真の「グローバル化」とは何かを考えなければなりません。それは、自分と異なる多様な文化を尊重し、互いに異なる観点から知恵を出し合い、人類の抱える地球規模の難問を解決しながら、人類全体の幸せを目指すことです。
こうしたグローバル化の中、これから先、皆さんが実際に行動をおこすために必要な力が「多様性の尊重」と「自己を相対化する視野を持つこと」の二つだと私は考えています。
東京大学には、全国そして海外から、さまざまな考えやバックグラウンドをもった学生が集まってきていて、多様性を尊重する環境が整っています。東京大学へ入学した暁には、課外活動や学生寮での生活などを通じて、自分とは異なる考えを持つ友人を見つけて、意識的に交流してほしいと思います。私自身、教養学部時代のサークル活動で培った文系理系を越えた交流は、これまでの人生で貴重な財産になっています。
また、自分が専門的に学びたいという分野の対極にある学問に触れ、それを相対化する視野を身につけることも大切です。文系なら自然科学の最先端の研究に、理系なら文化や社会のあり方に関する人類の叡智に触れてほしい。大学には、様々な研究、伝統の蓄積があります。必要な単位を取って卒業すればいいと考えるのではあまりにももったいない。(大学という場を最大限に活用しようと考えてほしいものです。