キャリア意識を持とう
ALをより実りあるものにするために
高校でのALの試みは、急ピッチで進められています。のんびり取り組んでいる学校や県は、この時代の転換から置いていかれているように見えます。ALがこれからの社会で求められる力を育み、その中で力強く生きていくために有効な方法、手法である以上、また次期学習指導要領の目玉の一つである以上、みなさん無関心ではいられないはずです。
こうした中で、今、生徒にとって大事なことは、将来、自分は何になりたいか、どのような形で社会に貢献したいかについて真剣に考えることです。
私は発達心理学、中でも青年心理学を専門としていて、学校から仕事、社会へのつながり、トランジションというものについて研究していく中で、知識とは、知るとはどういうことなのか、それは若者のキャリア形成にどのような影響を与えるかについて考えてきました。
そこでALと出会い、その理論的な枠組み作りと実践のお手伝いにかかわるようになってきたわけですが、これまで行ってきた大学生の調査では、キャリア意識(将来についての意識)の高い学生ほど、ALにも従来型の講義や家庭学習にも積極的に取り組むという結果が出ています。高校生については、2013年から始めている高2から大学、社会人へかけての10年間を追跡する新しい調査※3の結果を待つ必要もありますが、これまでのところでは、大学生対象のものと同様の結果が得られています。大学生の資質の中核となる部分はほぼ高校時代に作られると考えられますから、高校時代においてキャリア意識を高めることはきわめて大事だと思っています。
いい大学へ入れば人生安泰という時代はすでに過去のものとなっています。大学卒業までに、情報・知識リテラシーと、多様性を尊重し、他者と協働するためのチームワーク力、コミュニケーション力を身につけなければ、これからの社会で力強く生きていくことはできません。目下議論されている大学入試改革が、基礎的な知識に加えて、思考力・判断力も測ろうとしていること、高校教育に学力の三要素※4をしっかり身につける教育を促しているのもこのためなのです。
アクティブラーニングの技法・授業デザイン (アクティブラーニング・シリーズ)(溝上先生監修)
※1 2015年4月から始められた神奈川県の私立桐蔭学園高等学校(男子部、女子部)、中学校(男子部、女子部)、中等教育学校での取組
※2 文部科学省では、「課題の発見・解決に向けた主体的・協力的な学び、いわゆるアクティブ・ラーニング」としている。著者『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』では、協同学習、協調学習、調べ学習、ディベート、LTD(LearningThroughDiscussion)話し合い学習法、ピア・インストラクション(PeerInstruction)、PBL(ProblemBasedLearning)、PBL(ProjectBasedLearning)、チーム基盤学習(TBL:Team-BasedLearning)、IBL(InquiryBasedLearning)、ソクラテスメソッド、ケースメソッド(Case-BasedTeachingInstruction)、発見学習(DiscoveryLearning)、ピア・ラーニング(PeerLearning)、FBL(FieldBasedLearning)/フィールドワーク、加速度学習(AcceleratedLearning)、BLP(BusinessLeadershipProgram)が挙げられている。
※3 「学校と社会をつなぐ調査」(通称「10年トランジション調査」)。京都大学高等教育開発推進センターが調査企画や分析等を行い、学校法人河合塾教育開発本部が調査実施や事務管理等を行う。
※4 文部科学省によると、「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」、「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」、「どのように社会・世界に関わり、よりよい人生を送るか(主体性・多様性・協力性/学びに向かう力/人間性など)」ということになる。