シリーズ2回目は、長年、中央教育審議会委員を務めるなど、文部行政に関わり、全国学力・学習状況調査では専門家会議の初代座長も務められた奈良学園大学学長の梶田叡一先生に、大学入試改革について、また変革期に向き合う受験生に求められる心構えについてお聞きした。

 

真に求められているものは何かについて考えてみよう

 大学入試改革について、昨年度末には高等学校と大学とによる高大システム改革会議が答申を出し、議論の場はいよいよ実施主体である大学にも移る。戦後、大学受験のための入学希望者を対象とした共通テストは、短い期間のものも含めて3、4種類が実施されてきたが、2020年から始まる新たな試みには、学習指導要領の改訂も含めて、受験生のみならず社会の関心が高まっている。

 

 2020年には大学入試センター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が始まる。その前年には「高等学校基礎学力テスト(仮称)」が。いずれも本格実施は、2023年以降、次期学習指導要領の実施を踏まえた上でとされるが、各大学の推薦入試や一般入試では、今回の一連の改革案を可能な限り盛り込むことともされている。2020年への足音が聞こえる中、未来へ向けての学びのヒントを識者にお聞きする。

 

いつか見た景色

 《世界の先進国では今、人の能力を多面的に図ろうという流れになっている。またそもそも問題解決には答えが一義的に定まるものと、取り組むうちに解がいくつか出てくるものとがある。そのため答えが一義的に定まるものしか出題できないマークシート方式だけで大学入学者選抜の共通一次試験をやろうとするのは時代遅れ。論述式も取り入れるべきだ》――参考人として呼ばれた衆議院文教委員会で私はこう話しました。今からおよそ年前、1977年(昭和52年)3月日16のことです。

 1975年、過度の受験競争を緩和し、受験生を難問、奇問対策から解き放とうと大学入学希望者のための共通テストの導入と、その設計、実施を担う大学入試センターの開設(1977年)が決まりました。衆議院文教委員会ではそれに先立ち、専門家を呼んで意見を聞くことになり、当時、国立教育研究所(現・国立教育政策研究所)で学力の測定や評価方法を研究していた私にも声がかかったのです。私はアメリカのSAT(Scholastic Assessment Test:大学進学適性試験※1)が二種類のうちの一つで記述式を取り入れると公表していること、先進国の間では、1960年代には創造性などについてのギルフォード理論※2が一世を風靡するなど、学力(能力)を多面的に測定しようという流れになっていることを知っていましたから、原理的な検証もなしに、利便性だけですべてマークシートにすることは、国全体の知的レベルを下げることにつながると反対していました。私の参考人としての陳述内容を事前に察知した文部省幹部は、直轄研究所の職員が国のやろうとすることに疑問を表明することは困ると、当時の平塚益徳所長のところに来られたようですが、平塚所長は梶田は政治的な文脈からではなく、純粋にテストや評価についての研究に基づいて意見表明するのだからと許可してくれました。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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