チームの一員に選ばれること、そのためには、突き抜けた個性も求められる

 

Q 総合的思考力と創造的思考力を育てるのは、まさに大学の役割ですが、具体的にはどのように育てますか?

――それを考える前に、もう一つ考えておかなければならないことがあります。それはこの二つの力とも、一人の人間によるものは限界があるということです。総合力や創造性の源泉である点在する知識の結合や連関は、多様な人間がたくさん集まれば集まるほど強大になる。これはとりもなおさず、Society 5.0、AIの時代にAIに負けない仕事をしようと思ったら、チームで仕事をすることが重要であることを意味します。それも強いチームが。個人の側からすれば、チームの一員に選ばれることが最優先になる。そのためには、ある種、突き抜けた個性が必要だと私は考えています。

Q それはどうしてでしょう?

――私は学生に話をするとき、よく人気のあるゲームを引き合いに出します。パーティーを組んで強い相手を倒すには、全員が似通った得意技しか持っていないとうまくいかない。つまりチームを少しでも強くするには、違う属性、個性、得意技を持った人、言い換えれば突き抜けた個性を持った人材、異なるバックグラウンドを持った人材が必要だと。そういうチームのメンバーに選ばれることがSociety 5.0で活躍する条件になる。それには何もかもまんべんなくできるより、得意分野で専門性を磨き、その中で突出した能力を持つことが重要になる。これは大学にとって、これからはそのような人材を育てる教育をしなければならないということを意味します。

Q 経済学部の改組、経営学部の新設はそのための第一弾ですか?

これまで経済学部では、経済、経営、統計、教養など、好きなものを自由に学ぶことができました。これには良いところもたくさんあります。しかし、チームで働くことが大事な社会では、各自が得意技を磨く必要がある。大学の教育組織、教育体制にこれを当てはめると、学科の専門領域をもっと明確にし、これまで以上に専門性に磨きをかけてもらうということになります。

そこでまず、これまで経済経営学科の1学科だった経済学部を、経済数理学科と現代経済学科に分け、経営学部 総合経営学科を新設し、それぞれに特色を持たせることにしました。

経済数理学科では、経済学に不可欠な数理モデルを用いて定量分析やデータ分析に取り組む。入試でも数学を必須とし、入学後も全員に、数学や統計学、プログラミングを必須にします。

現代経済学科では、経済学の知識をもとに、PBLやフィールドワークを多く取り入れ、多様な人たちとコミュニケーションを図りながら、社会課題の解決に当たります。

総合経営学科については、経営自体がトータルな人間的営みを対象にするものということで、総合経営学科という名称にし、新たに経営学部という独立した新しい学部にしました。

 

得意技プラス2で、山型人材を
改革のもう一方の柱 副専攻制度

 

Q 副専攻制度も始められます。その位置付けは?

――得意分野を明確にし、専門性を磨くことは、創造的思考力を身につけることにつながりますが、総合的思考力を身につけるには、もう一領域、得意な分野を増やし、視野を広げる必要があります。そのために用意したのが、専門分野以外から自由に選択して学べる16の副専攻です。もちろんこの中には、一定程度以上のITリテラシーを身につけるためのものも含まれます。2020年度からは全学部の学生が、専門分野に加えてこの中から一つを――ITリテラシーの習得も含めれば二つですが――選んで身につけてもらう。まさに私の言う《山型人材》を目指してもらうのです。

Q 山型ですか?

――人材育成論の中でよく言われる「Π(パイ)型人材」(二つの専門分野を持つことでキャリアを安定させることを表す。
T型に対比して用いられる)に少し工夫を加えたもので、中央の長い縦線が専門の力を、両脇の2本の縦線が副専攻で得た力とITスキルを表わします。この方がキャリアはもっと安定し、分野融合によるシナジー効果も大きくなります。

Q 副専攻制度についてもう少し詳しく。

――これまでの大学教育では、教養教育に幅広い視野を養う役割が期待されていましたが、それをテーマに沿って体系化し、専攻に準じる学びができるように科目群を構成しました。学生からすれば、自分の選んだ専門分野を深めるのに必要な周辺知識、あるいは関連知識が選びやすいし、また体系的に学びやすい。
もちろんITやグローバルに活躍するのに不可欠なプログラムも特別につくってあります。

Q 具体的にはどのようなものがありますか?

――歴史文化学、哲学思想、地理環境学、社会福祉、公共政策、言語文化、グローバル・コミュニケーション、国際関係、経済学、経営学、法律学、政治学、文学、心理学、科学コミュニケーション、総合ITの16で、原則、全学部生を対象にします。

このうち総合IT副専攻は、Society5.0、AIの時代には欠かせないリテラシーを身につけるものとして重要ですから、どの学部・学科に所属していても、希望すれば全員がとれるようにしたい。そのために基礎知識やプログラミングの修得のための授業の半分以上をオンラインで行う計画です。現在、大学のカリキュラムは極めてタイトになっていますから、オンラインで行えるようにすることで、学生はどこでもいつでも学ぶことができます。小テストも受けられますから、それをクリアしないと次のステップに行けないようにもできる。また、オンライン上で指導者に質問したり、他の学生とディスカッションしたりもできるようにしたいと思います。

もう一つの目玉は、グローバルに活躍したい人のためのグローバル教育プログラムEAGLEの一部が学べるのがグローバル・コミュニケーション副専攻です。

ちなみにE A G L E( Education for Academic and Global Learners in English)は、成蹊ブリリアント2020の一翼を担うもので、学部横断型で定員30名の特別プログラムです。2学科型グローバル教育プログラム統一入試(G方式)の受験が必要で、特別な外国語教育はもちろん、一年の夏休みにはケンブリッジ大学で3週間学び、2年では中長期の留学に出かけるなどの特別なカリキュラムが用意されています。留学先大学の多くで授業料が免徐されるほか、留学奨学金も支給されます。海外インターンシップやグローバル・キャリア・デザイン科目もあり、帰国後は自分の受けたい科目を英語で受けられます。意欲の高い人にはどんどん力をつけてもらえるプログラムという位置づけです。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
成蹊大学

豊かな教養と人間性を育み、徹底したグローバル教育で真の国際人を育成

成蹊大学は、教職員との距離が近い伝統の少人数教育を重視。教職員と学生が近い距離で緊密な信頼関係を築き、互いの人間力を高めあっています。全学部共通の「成蹊教養カリキュラム」や「副専攻制度」、「丸の内ビジネス研修(MBT)」や「EAGLE(グローバル教育プログラム[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。