長年、静岡県にあって、主に県内で活躍する人材の育成を担ってきた静岡産業大学。創立以来、「知識偏重ではない人間形成を重視した教育を」と、高等教育機関であっても「人間力」を身につけてもらうことをモットーに歴史を刻んできました。2020年春には、その理念を継承し、スポーツ人間科学部(仮称)を磐田キャンパスに開設。あわせて経営学部を藤枝キャンパスへ集約させ一層の充実を図ります。新しいスポーツ教育モデルでスポーツ文化の拠点作りを目指すというスポーツ人間科学部(仮称)について紹介します。
スポーツ人間科学部(仮称)で時代の要請、地方の課題にも応える
国の「スポーツ基本計画」の策定や東京2020、また超高齢化社会や子育て・教育環境の変化もあって、近年スポーツについて、社会科学系の学問からアプローチしようという試みも盛んです。
そんな中で、静岡県内初となるスポーツ人間科学部(仮称)の開設を来年度に予定しているのが静岡産業大学。体育学、教育学、社会学、心理学、統計学などからスポーツに関するすべての事象について研究する「スポーツ科学」に、「人間」や「社会」を考えるさまざまな領域の学びを融合し、社会における「スポーツの持つ力」を紐解いていく学問を「スポーツ人間科学」とし、スポーツの持つ力を活かして社会における「価値の創造」と、「豊かな社会」の実現を目指します。設置予定の学科は「スポーツ人間科学科(仮称)」と「こどもスポーツ教育学科(仮称)」の2学科で、競技者だけでなく、科学的な知識を備えた指導者、教員や保育者、そして、スポーツでリーダーシップを培ったビジネスパーソンなどの輩出を目指します。
特に、競技スポーツについては、従来型の苦しいトレーニングや上意下達の組織からの《解放》を掲げ、スポーツすることの楽しさを全面に出し、科学的な知識をもとに自らの技術や、チームとしての戦術等の実行能力を高めていきます。また、「する」に加えて、「観る」「はかる」「支える」など、様々な側面からスポーツに携わるための諸学を用意しており、社会の様々な分野で活躍する人材を育成するとともに、現役を退いたアスリートの将来設計も応援します。
スポーツ人間科学科(仮称)の特徴
スポーツ人間科学科(仮称)では、最先端の科学機器を授業に活用、スポーツ医科学研究センターやスポーツ教育研究センターと連携し、科学的視点に立って、GPS、ICT を駆使するなどの科学的手法に精通したアスリートやスポーツ指導者の育成を目指します。今や、アスリートが優れた成績を目指すには、最新の科学的根拠に基づいた「スポーツコンディショニング」(傷害の予防とパフォーマンスの向上を目的に、心身をベストの状態に保つ各種手法を学ぶ)によるコーチングが不可欠と言われる時代。たとえば、「スポーツコンディショニング」の授業では、トップレベルのサッカーチームも採用している最新のGPS測定器を使い、プレーヤーの走行距離やスプリント数をデータ化、それを分析・評価する方法を学びます。その上で、分析結果から具体的なトレーニング方法を考え、それを実践することで、ベストパフォーマンスを発揮するためのコンディショニングを体感します。
また、経営学やマーケティングの基礎を学び、スポーツビジネスや、スポーツに限らず幅広い業界で活躍できる人材の育成を目指すのもこの学科の特徴のひとつです。たとえば、「スポーツ経営管理論」では、スポーツ関連用品の企画製作や商品開発プロセス、さらには価格設定の方法やブランディング、プロモーションや流通方法について学んだり、誰もが楽しむことのできるニュースポーツを考案し、体育館などで試行したりもします。経営学の知見がスポーツ用品の開発などに実際に結びついていることを理解するだけでなく、自分の考えたアイデアを実際に試してみることで問題点を明らかにし、仲間と協働して改善を図るなど、社会へ出てから求められる力の育成も図ります。
こどもスポーツ教育学科(仮称)の特徴
こどもスポーツ教育学科(仮称)では、「運動遊び」を通して子どもの心身の健全育成を促す《スポーツ保育》の理念を掲げ、成長段階に応じた子どもの発育、発達支援や、保育、福祉の知識と技術の修得を目指します。2020年度からは、これまでの保育士資格の取得に加えて、幼稚園教論免許※ 1 や特別支援学校教諭免許※1も取得できるようになり、そのために欠かせないインクルーシブ(包摂的)教育※2にも力を入れます。
また、学生が主体となって企画、運営する子ども向けスポーツ教室「キッズスクール」【写真下】で、「スポーツ保育」を体験的に学習できるのも大きな特徴です。具体的には、1年次はアシスタントとして子どもと同じ目線で「やってみる」ことからスタート。2年次には、少しずつ指導の中心を担います。保育者やスポーツインストラクターなどを目指す学生には、座学で得た知識を実践に移す貴重な場であり、教科書通りにはいかない幼児教育の大変さを実感するとともに、面白さも体験します。この活動は、クラブに所属するアスリートにとっては運動技術をわかりやすく伝え、指導する方法を身につけられるいい機会になります。さらに、運営スタッフや保護者とのやりとりを通じて、キャンパス内では経験できない「大人とのコミュニケーション力」が鍛えられる貴重な場ともなります。
このほか、子どもたちとの関わり方を実践的に学べるように、2018 年に「こども教育棟」を設置。保育実習室、調理実習室、図画工作室、小児保健室、音楽室、ダンス場など、専門的な学びに必要な設備が整っています。保育実習室は幼稚園や保育所の保育室を模して作られており、保育実習に向けた「保育実習指導」など、実践的な授業を実施しています。
※2 人間の多様性の尊重等を強化し、障がい者が精神的および身体的な能力等を最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能にするという目的の下、障がいのある者と障害のない者が共に学ぶ仕組み。
藤枝と磐田の2キャンパスによる相乗効果を
1994年に経営学部からスタートした静岡産業大学は、校名の示すように主に地域で活躍するビジネス人材の養成に力を入れてきました。
2005年にはスポーツの持つ優れた教育効果に着目、磐田キャンパスがプロサッカーチーム、ジュビロ磐田の本拠地でもあることなどから、経営学部にスポーツ経営学科を開設、今日に至っています。この間、「スポーツ」と「経営」について実践的に学ぶための様々な取組を行ってきましたが、そのうちの一つが、特定の企業や団体、行政機関から、人材とビジネス情報の提供を受けその名を冠して開く冠講座。中でも有数の人気を誇るのが、株式会社ジュビロによる「冠講座」。
プロスポーツのリアルな経営・運営・チーム作りを学んだ上で、ジュビロ磐田のホーム「ヤマハスタジアム」での来場者向けイベントの企画・運営を、学生が中心になって行います【写真上】。授業で学んだ経営学やスポーツマーケティングの知識を基に、いかにユニークなアイデアを出すか。過去には、うちわを使った応援グッズ作りや『ジュビロ神社』の企画など、高い評価を受けたものも少なくありません。しかし、そうした評価以上に学生を成長させるのが、現場での実体験。スポーツビジネスにかかわりたいと考える学生にとって、多くの企業人と触れ合える貴重な機会となっています。ちなみに冠講座はこのほか、株式会社電通東日本、中部電力株式会社、スズキ株式会社、磐田市、藤枝市、株式会社静岡銀行などの協力によるものがあります。
藤枝に集約しさらに充実を図る経営学部、磐田でスポーツによる化学反応を目指すスポーツ人間科学部(仮称)。2020年、静岡産業大学は、二つのキャンパスの役割をいっそう明確にし、学びの相乗効果で、静岡に貢献する人材育成の取り組みを、さらに加速していきたいとしています。
カレッジスポーツもUNIVAS※3加盟で一層充実
「する」だけでなく「観る」「支える」の要素も加え、より魅力的なカレッジスポーツの実現に取り組む。具体的にはスポーツ振興部を設置し、各クラブには大学組織から部長を置き、大学の理念やビジョンに沿った強化活動を展開。大学の持つあらゆるリソースを競技力向上に活用する。またサポーターを増やし、学生を巻き込んだ大会運営や広報活動に力を入れることで、地域との交流をさらに深め、興行面での魅力向上にも力を入れるなど、《スポーツの魅力と効用を最大化することでは日本一》の大学を目指すとしている。
団体。略称はUNIVAS。