都市工学の教育・研究、実践のための新たなプロジェクトが発足
あれから2か月が経った現在、図書館地下等の復旧活動はまだ続いているものの、大学にはいつものキャンパスライフが戻ってきている。そして、大学では今回の経験を活かした新たな展開がはじまった。前出の都市工学科においては、末政主任教授以下、全教員で“都市工学”の知見を活かして災害の原因究明、今後の対策について考えることを目的にしたプロジェクトが立案された。≪台風19号による玉堤・田園調布地区の内水氾濫による被害状況を詳細に調査し、収集した客観的な事実からその発生原因を明らかにし、(同地区の氾濫に対する)効果的な対策を実施する上での資料とするとともに、有効な被害低減方法を提案する≫のが目的だ。具体的には、達成すべき内容と実施期間を考慮して、大きく3つのフェーズが設定されている。
フェーズ1は、すでに実施した被害調査と情報収集、および次のフェーズへつなげるための導入研究からなる。被害状況調査は12班に分かれ、各班には教員一名がつき、約100名の学生が参加して10月中に実施された。収集した情報の整理は2019年内の完了を目指して進められている。3年次の第3クォーターに置かれた「事例研究」は、卒業研究のための準備も兼ねた科目であるが、各研究室のテーマを今回の災害に切り替えた。2020年1月には、その発表も予定されている。建物分野の被災との関連から、同じ工学部の建築学科の担当分を加えて10テーマの内容が報告される予定だ。
フェーズ2・フェーズ3は主に教員の取り組みが中心となる。フェーズ2は、社会的、学術的に重要で、期間が1年以上必要なものとなる。具体的には、玉堤、田園調布4・5丁目の浸水状況のシミュレーションとハード対策の提言や、玉堤、田園調布4・5丁目の浸水に際しての住民の避難行動の調査と提言をまとめる予定だ。フェーズ3は、内水氾濫に関する調査や対策の研究で、期間も数年間を要するものとなる。シミュレーションやモデリングを使った災害予測や、土嚢・ブロック塀などの改良、高品質化の研究など、大学を超えた地域全体の防災対策も視野に入れる。
今回の想定外ともいうべき被災は、教職員、学生に大きな試練を与えたが、一方で≪都市研究の都市大≫として、都市が抱える課題の研究を大学全体が取り組むべきテーマに掲げる東京都市大学にとって、それを教育・研究に活かし、地域貢献につなげていくための契機ともなったようだ。災害の原因究明やそれを受けての防災計画では、各レベルの公共団体や市区町村の住民の利害、思惑が入り乱れ複雑化しやすく、大学の中立性に寄せられる期待は少なくない。そして何よりも今回の被災は、豊かな社会の中で、安全・安心が当たり前という環境のなかで育ってきた学生にとって、貴重な「当事者としての体験」となるに違いない。
溢水(いっすい)・越水(えっすい):川などの水があふれ出ること。堤防がないところでは「溢水」、堤防のあるところでは「越水」を使う。
浸水・冠水:洪水による氾濫によって住宅や田畑が水につかること。住宅などが水に浸かることを「浸水」、田畑や道路などが水に浸ることを「冠水」という。
外水氾濫:河川の堤防から水が溢れ又は破堤して家屋や田畑が浸水すること。
内水氾濫:堤防から水が溢れなくても、河川へ排水する川や下水路の排水能力の不足などが原因で、降った雨を排水処理できなくて引き起こされる氾濫。