日本のものづくり技術は、世界のトップレベルを誇るものが多い。その一つが、宇宙開発の領域であり、ロケット開発の技術である。日本の主力ロケットであるH2A/H2Bは、これまでに約50機が宇宙に打ち上げられてきた。そして、97.9%という成功率を語る上で欠かせないのが、世界的に見ても信頼性が高い、純国産の液体ロケットエンジン『LE-7A』である。

 その開発スタートから量産までに携わり、四半世紀にわたって液体ロケットエンジン開発一筋に歩んできたエンジニアがいる。現在は帝京大学宇都宮キャンパスで研究を行っている、理工学部航空宇宙工学科の真子弘泰教授である。次期主力ロケットとされるH3のエンジンとして開発が進められている『LE-9』では、『LE-7A』の1.4倍の推力を発生させ、コストの削減やさらなる信頼性の向上も同時にめざしている。増大する宇宙利用のニーズや、競争時代に突入したロケットビジネスも視野に入れた開発といえる。真子教授が取り組んでいるのは、そんな『LE-9』の課題を見据えた研究だ。

 真子教授が着目したのは‶燃焼振動”という現象。燃焼室内で生じる熱と圧力が互いに変動を強め合うことで発生する共鳴現象であり、圧力変動が大きくなるとエンジンを破壊してしまうリスクも高まるという。「『LE-9』に採用される燃焼方式は、重大な故障が起こりにくいため信頼性が高く、パーツ数が少ない分だけコストダウンを図れるというメリットがあります。その一方で生じやすいのが燃焼振動であり、この現象の解明に注力しています」

 真子教授の研究室では、液体ロケットエンジンの一部を再現し、燃焼の仕組みの一部を可視化できる‶燃焼実験装置”を製作。さらに、燃焼振動抑制デバイス‶レゾネータ”の開発を進めており、スピーカーから出る音によって共鳴現象を発生させ、狙った周波数帯の音を吸収する最適な構造や並べ方を検証している。

 コンピュータによる解析やシミュレーションが容易となった現代だが、未解明の現象を紐解くには経験則だけではなく、物理的に理論を設計していかなければ、さらに上の性能には辿り着けない。だからこそ、物理現象の解明に挑むためには基礎研究が重要だと真子教授は語る。

 「子どもの頃に見たアニメの影響で宇宙に興味を持ち、大学では水素燃焼の基礎研究を行っていました。それを実用化するロケットエンジン開発に携わりたいと思い、企業に入りました。ロケットが無事に飛び立つ瞬間は、何度立ち会っても感動的です。しかし、企業の開発現場では期限内にゴールへ到達することが優先されます。未だ解明できていない燃焼のメカニズムを、基礎研究ができる大学に戻って解明したい。新たな理論や技術を確立できれば、未来のロケットエンジンにも応用できるかもしれない。そんな希望を抱いて3年前に軸足を大学に移したのです」

 現在もエンジニア時代の企業や研究開発機関とかかわりを持ちながら、宇宙の未来を拓こうとしている真子教授。自身の研究室に所属する学生たちを、次世代ロケットエンジンの開発現場に送り出し、同じ感動を味わってもらいたい。そんな胸の内も明かしてくれた。

真子弘泰教授の研究動画はこちらからご覧いただけます。
https://www.teikyo-u.ac.jp/affiliate/research/rocketengine.html

 

01. 燃焼のメカニズムを解明するため、仕組みの一部を再現した「燃焼実験装置」。数百本のエレメントを束ねた構造になっている実際の液体ロケットエンジンから、1本のエレメントを取り出して製作。燃焼室の内部を観察できるガラス窓が備え付けられている。

02. 液体ロケットエンジンで使用される水素と酸素の、燃焼実験装置を有する大学は日本に数少ない。その設計や製造には、真子弘泰研究室に所属する学生たちも携わっている。

03. 燃焼振動の抑制デバイス「レゾネータ」の開発も、真子教授の研究テーマの一つ。燃焼振動によって生じる、燃焼室内の音響的な振動(圧力変動)を吸収するデバイスである。スピーカー試験によってあらゆる周波数の音を発生させ、高い吸音率を示す最も効果的なレゾネータ形状や配列を、無限にあるパターンの中から探っている。

04.ロケット工学、エンジン工学、熱流体力学、反応性流体力学を専門分野とする真子教授。宇宙開発に携わる次世代のエンジニアや研究者の育成にも力を注ぐ。

 

帝京大学
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大学ジャーナルオンライン編集部

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