受験生の地元大学志向で東京の難関私大は倍率が下がることも

③一般選抜の志願者数・合格者数が減少する

 受験生が総合型・学校推薦型選抜に向かうことで、例年よりも多くの受験生が年内に合格大学が決まってしまい、一般選抜を受験する受験生数は減少することになるでしょう。そのため、一般選抜の志願者数は減少することになり、また、特に中堅の私立大学の場合は、年内に実施した入試である程度の入学者数が見込めるため、一般選抜の合格者数を減らすことが予想されます。前述のような指定校推薦の入学者だけで入学定員を超える学科は、一般選抜で合格者を出すと入学者数が入学定員を大きく超過しかねないため、そもそも合格者を出せないのです。これは極端な例ですが、総合型・学校推薦型選抜の合格者が増えることは、一般選抜の受け入れ枠が減るという仕組みに変わりはありません。

 ただし、国公立大学や難関私立大学の場合は、もともと一般選抜で募集する人数の方がはるかに多いため、一般選抜への影響は限定的です。また、多くの受験生が地元地域の大学を志望していることから、東京の私立大学の志願者数は減少すると予想されます。特に共通テスト利用方式は、共通テストそのものへの不安もあるため、人気の高い東京の難関私大であっても、志願者数がかなり減少すると思われます。こうしたことから、東京の難関私大の共通テスト利用方式の倍率は昨年よりも下がると予想されるため、むしろ受験機会として積極的に活用することも一つの考え方と言えるでしょう。

④大学入学共通テストの重要度は高まるが平均点は前年よりも下がる

 その共通テストですが、初めての実施のため多くの受験生が不安を感じているでしょうが、重要度は例年よりも高まっています。早稲田大学が追試験実施の代替措置として、共通テストの成績を用いると発表しており、横浜国立大学や長野県立大学の一部の学部などのように、個別試験の実施を取り止め共通テストの得点で合否判定を行うなど、これまで以上に重要な役割を担うことになります。

 ただし、過去に2回実施された試行調査(プレテスト)の出題内容から、これまでのセンター試験よりも問題の難易度が上がると見られています。そのため、平均点は前年のセンター試験よりもダウンすると予想されます。昨年のセンター試験も英・数・国の主要教科で平均点がダウンしていましたが、それよりもさらにダウンする可能性も考えられます。受験生にとって、目標としていた得点に届かなかった場合、平均点が低くて他の受験生も点数が取れていないことが分かっていても、精神的にダメージを受けます。そのため、特に中堅層の受験生が国公立大学の出願に対して慎重になるでしょう。結果として国公立大学の倍率が下がることも予想されますので、前述の難関私大の共通テスト利用方式と同様に、思うような得点が取れなかったとしても、受験機会として積極的に活用することを考えても良いのではないでしょうか。

 

試験期間が例年よりも長く続き、受験生が思わぬ合格を手にする可能性も

⑤追試験・振替受験の実施などにより試験期間が長引く

 共通テストは、特例追試験を2月13日(土)、14日(日)で実施すると発表しています。これは1月30日(土)、31日(日)の追試験として実施されるため、受験者数は限られると思われますが、これまでにない措置です。また、多くの国立大学は追試験を3月22日に実施することを予定しています。こちらも受験者数は限られると思われますが、追試験で国立大学に合格した受験生は、多くが私立大学の入学を辞退します。3月末になって入学辞退者が出るのは、私立大学にとっては痛手です。人数次第では入学予定者に辞退された大学が追加合格者を出さなくてはならなくなるでしょう。こうした連鎖は毎年のように見られますが、2021年度入試では追試験などの措置によって、より混沌とするものと予想されます。

 私立大学も、多くは受験機会確保のために後期入試などへの振り替え受験を認めていますので、こうした影響もあって、今年の入試は例年よりも試験期間が長引くことになりそうです。ただ、仮に3月末に合格が判明しても、自宅通学できない他地域の大学では、部屋探しや引っ越しの手配など、入学までかなり忙しくなります。こうしたことも受験生を地元大学に向かわせる理由の一つになりそうですが、来年度の大学の授業も多くがオンライン授業となりそうだと言われているため、転居を急ぐ必要はないと考えることもできそうです。

⑥大学の改組・新増設で入学手続き率が変化、追試験も影響する

 2021年度は、公立大学が2大学新設され、私立大学も2大学が新設されます。また、公立専門職大学が1大学、私立専門職大学が4大学新設されます。その他に多くの国公私立大学で学部新設、学科新設が予定されています。(河合塾の大学入試情報サイトKei-Netより https://www.keinet.ne.jp/exam/2021/pdf/21shinzo.pdf

 新しい大学や学部が設置されると受験生の流れが変わります。大学にとっては新しい競合先が増えることになります。自大学に合格した合格者が、新しく設置された他大学にも合格して、そちらを選択するケースも出てくるため、前年までとは合格者の入学手続き率が変わってきます。合格者の入学手続き率は毎年必ず同じではないものの、比較的狭いレンジの中で変動していますので、ある程度の予測ができます。しかし、新しく設置された大学や学部との併願者が多い大学は、予想外の影響を受けることもあります。実際の入学手続き率が予想よりも低かった場合には、予定していた入学者数に満たなくなる恐れがあります。そのため、後半に実施される入試で合格者数を当初予定よりも増やしたり、追加合格を出したりするなどの対応を迫られることになります。

 こうした影響で受験生が入試後半時期に予想外の合格が得られることもあります。今年は追試験もあるため、例年よりも流動的となることが考えられます。受験機会は最後の最後まで活用したいところです。

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神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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