緊急事態宣言の解除から5カ月。新型コロナウイルスの感染収束については予断を許さないものの、小・中学校、高等学校がほぼ全面的に再開する中、大学の秋学期の動向に注目が集まっている。その中で、安全・安心のキャンパス実現のために、学内でのPCR検査実施に踏み切る大学も現れ始めた。今春の感染拡大期、PCR検査実施の抑制か拡大かの議論の中でも言及された大学での実施。それを独自のコンセプトで取り入れて事態の打開を目指す取組には、教育的な見地からも注目が集まる。

 

秋冬に備え、新型コロナウイルス感染症の検査センターの能力を倍増 実習前の学生と受け入れ側に安心感。地域医療への貢献も目指す

長崎国際大学

 6月に、医学部や病院を持たない大学としては初めて、新型コロナウイルス感染の有無を診断する検査センター(「NIU疾患検査センター」)を設置した長崎国際大学(佐世保市ハウステンボス町。人間社会、健康管理、薬学の3学部)。11月からは、秋冬の感染再拡大やインフルエンザの流行も視野に、検査能力を倍増する。

 同大は学生や教職員、近隣住民の安全・安心、および長崎県の地域医療に貢献すべく、県から2台の検査機器を無償貸与してもらい、衛生検査所の登録も受けて、7月1日から運用を開始した。「感染者を早期発見、隔離し治療することが大事で、感染が疑われる人がすぐに検査できない状況を少しでも解決したかった」と医師でもある安東由喜雄学長。実際、全学科の学生の間には、実習前に検査を受け、感染していないことを証明してから実習に臨めると安心感が広がるとともに、実習先からは好感を持って受け入れられているようだ。

 検査方式は、短時間で結果がわかり、コストを抑えられるLAMP法で、唾液を使う。薬学部の隈博幸教授(臨床検査学)ら8人が土・日曜日を除く週5日対応、検査能力は1日5サイクル最大100件との設定で行っている。9月末までの3カ月間で計618人を検査。うち学生が35%、同一法人の短大などの学生が9%、教職員13%で、残りの43%が一般の受検者だった。

 同大では8月に、「利休庵診療所」も開設。学長ら医師免許を持つ教員4人が講義の後などに診療も始めた。そして11月からは、県からさらに2台の貸与を受け、1日200人の検査が可能な体制を整え、佐世保を中心とした長崎県北部、佐賀県の一部の住民への対応も視野に入れている。

 長崎国際大学は2000年、学校法人九州文化学園と長崎県及び佐世保市の公私協力方式で開設(安部直樹理事長)。「人間尊重を基本理念に、よりよい人間関係とホスピタリティの探求・実現、並びに文化と健康を大切にする社会の建設に貢献する教育・研究」を建学の理念に掲げ、茶道を必修とするユニークな大学として知られる。

 

安全・安心なキャンパスづくりへの新たな挑戦が始まる 京都の産官学で総力を結集

京都産業大学

産官学の連携で、今日から稼働したのが、京都産業大学PCR検査センター。医学部・薬学部を持たない総合大学としては初の試みとなる。

 9月1日に分析機器や医用機器の大手メーカー、株式会社島津製作所(本社:京都市中京区)と「包括的連携協力に関する協定」を結び、同社の開発した新型コロナウイルス検出試薬キットを用い、唾液による検査を行う。対象は症状のない学生、教職員。京都府・市との連携では、他大学への情報提供、学生の街・京都における感染拡大防止への貢献も目指す。

 教育・研究面では、PCRなど基礎科学を行う生命科学部や感染症分子研究センターと連携して、理系人材の育成にも役立てるとともに、島津製作所と連携して感染防止に向けた新たな研究の展開も目指す。またコロナ禍の中での新しい形の産官学連携の構築も試みる。

 設置されたのは、ラーニングコモンズなどのある2013年に新築された雄飛館の4階。診療所の附属機関として、併設する既存の施設を改修した。施設の安全基準はバイオセーフティレベル2+(BSL-2+)で設定。2025年までの運営を予定しているが、衛生検査所としての登録も目指す。学生の負担は900円に抑える。

 床面積約88㎡で「検体採取室」(簡易防護対策)、「検体取扱室」(BSL-2+)、「試薬調製室」、「PCR測定室」の4区画に区切られる(図)。常勤スタッフは検査技師など4名で、週5日稼働、午前に検体採取、午後から検査を行い、1日の検査目標数は最大150人。ただ、当面は無理のない範囲の40人分に抑える。無症状感染者による感染リスクへの不安をできるだけ払拭するのが目的で、当初はリスクの高い集団生活をする寮生や、実習・フィールドワーク等で学外へ出向く学生、同居する家族に高齢者のいる学生など約1900人に優先的に声をかける。また全学生に対しては、積極的に情報を開示していくとともに、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAのインストールを推奨するなど感染意識を高め、行動のさらなる変容を促す。

 希望する学生は予約を取り、学内用WEB掲示板から申請書類をダウンロードして印刷、必要事項を記入して来室。入室後すぐに検温し手指を消毒。用意された50mlのチューブを持って3室ある陰圧ブースに一名ずつ入り、自ら唾液を採取し、小窓の中の収納ラックへ入れ扉を閉めて退出する。陰圧ブースは、殺菌灯も備え万全の安全対策を施す。ブースの裏側ではスタッフが待機し、小窓から間接的に検体を回収し、検体取扱室へ送るパスボックスへ入れる。検体取扱室では、検体を遠心分離機にかけたあと、前処理試薬をまぜ、90℃で7分間加熱し、パスボックス経由で試薬調製室へ送る。こうして前処理を済ませた検体は、試薬調製室で検出用の試薬を入れPCR検査器にかけられ測定が行われる。この間の一連の流れが約1,5時間だ。検査で陰性の場合はメールにて連絡。陽性が疑われる場合には、再検査など慎重な対応が予定されている。陽性/陰性の判定、および万が一陽性と判定された場合の保健所への連絡は医師が行う。

 19日に行われた開所式では、近くの上賀茂神社から神職を招き、神事一式を行うとともに、その後、除幕式が行われた。来賓として駆けつけた西脇隆俊京都府知事は、この取組が全国のモデルケースとなり、府内の大学や他府県へも波及することを期待するとエールを送った。

 株式会社島津製作所の上田輝久社長は、同社としては医学部、薬学部を持たない大学とは初の連携となるとしたうえで、海外でも感染拡大しており、世界へ発信すべき取組と意気込みを述べた。最後に京都産業大学のスローガン、“むすんで、うみだす。”をひき、学生、教職員、地域の人とむすんで新しいものを生み出してほしいと締めくくった。

 開所式の最後に行われた内覧会で、自らPCR検査について説明する黒坂光新学長。専門は生化学。総合生命科学部長も務めた。新型コロナウイルスについては、「相手を知って正しく恐れよう」と。

 

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大学ジャーナルオンライン編集部

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