右)藤澤明 准教授:東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。東京文化財研究所等を経て、2014 年より現職。専門分野は、保存科学、文化財科学、金属加工学。
撮影/戎谷康宏 場所/帝京大学文化財研究所
文系と理系の知を融合シルクロードから新たな地平へ
「アク・べシム」という遺跡をご存知だろうか。中央アジアのキルギス共和国北部にある、シルクロード沿いの交易都市の遺跡だ。三蔵法師で知られる玄奘が訪れ、唐代の詩人・李白の生まれた場所とも言われる。この地で2016年から発掘調査を行っているのが、「帝京大学シルクロード学術調査団」だ。山内和也教授、藤澤明准教授ら帝京大学文化財研究所および帝京大学文学部史学科の教員を中心に、遺跡の発掘を通して当時の人びとの暮らしや文化を解き明かそうとしている。その成果はめざましく、漢字の書かれた瓦片を発見することで、唐の築いた最西端の軍事拠点「砕葉鎮(さいようちん)城」の跡であることを確認したほか、美しい石造りのモザイクを掘り起こし現地の人たちを驚かせた。
「これまで私たちはベーシックな考古学という観点を軸に研究をしてきました。これに加えて今後は、帝京大学グループを中心にさまざまな分野の専門家である先生に集まっていただくことを考えています。すでに医学部や理工学部の教授たちと新たな発想でアプローチする方法を話し合っています」
藤澤准教授によれば、医学の先端研究を基に「考古医科学」や「考古生体有機化学」などと位置づけて研究を行えば、従来にない調査手法を生み出しうるという。「例えば、考古DNA解析。この技術を活用すれば土壌や水などの環境の中から、そこに生息した生物由来のDNAを分析することができます。遺跡の地中をボーリングして何百年分かの土壌を抜き出し、下から順番に解析していけばさまざまな情報が得られるはずです。この手法であれば、出土した動物の骨や植物の種子などを分析するのとは異なり、当時生息していた生物種の全体像や環境がより具体的に分かるのではないかと考えています」
今までの発掘ではかかわることのなかった領域の知見を生かした方法論を試みることで、遺跡からより深い情報を引き出すことが彼らの狙いだ。新たな手法を導き出すことは、多くの発掘にも大きな成果をもたらすだろう。だがそれ以上に、新手法へのアプローチは新たな学問を生み出すことであり、文化財調査とは別側面からの社会貢献となる。文系と理系の知の融合。それは、さらなる可能性を広げ、価値の創造につながっていく。二人は、そう信じている。
「私たちはずっと過去ばかりを見つめてきましたが、これからは未来にもどんどんつなげていこうと思います」。そう言って山内教授は微笑んだ。
シルクロードの遺跡から新たな地平へ。
今、〝未来〞の発掘が始まろうとしている。
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