これから必要なのは育成型入試

木村:九州大学で育成型入試のシンポジウムを行った時に大きな反響があった。日本では大学生の中退が大きな問題となっているからだろう。受験生を何人集めたかよりも、入学した学生をいかに伸ばせる大学かにトレンドが明らかに移りつつある。アメリカの大学ではアドミッションオフィサーの役割は1年目までと言われている。そのあとは学部の責任とされているが、大学の卒業生が職員やクラブのコーチとして関わることで、教員以外との関わりで成長していけるようになっている。

 我々はアドミッションオフィサーが1年生の授業を担当するなど関係性を継続することで、学生が必要とすれば大学内の必要な部署に繋いでいく役割も担いたい。北海道在住の高校生が、道内の進学を考えていたのにもかかわらず、私の講演を聞いて九州大学に志望を変えたと入学後に挨拶に来てくれたことがある。彼の将来を大きく変えてしまったことに責任を感じるとともに、この仕事のやりがいを感じることができた。

 特に地方の国立大学では、生徒を集めるのに苦労されている。ピンチをチャンスと捉え、大学の先生方には「自分が一緒に研究したい学生を、ご自身で高校まで迎えにいきませんか?」とお誘いしている。我々は学生を一緒に育成してくださる先生を常に探している。

 

九州大学伊都キャンパス

 

小畑:今の木村先生の話は「いい話」だし、本当に大事なことだと思う。確かに大学の先生からすると、入試という大学の入口から自分がかかわった学生さんなので、入学後の相談や指導に熱が入る。高校と大学のシステムとしての「高大接続」は、先生と生徒・受験生・学生との「学びの絆」を創っていくことになる。

 私は予備校から大学に転職したこともあって、学生さんを送っていただく高校とともに塾や予備校との関係を重視してきた。高校以外にもたくさんの塾や予備校を訪問させてもらった。それが、立命館大学の志願者数を4万名台から10万名まで増やすことができたことにつながった。「校塾連携」も重要な教育システムの一環として関係性を強める必要があると考えてきた。それから、私学には付属校や系列校との「一貫教育」が昔からあって、中学・高校と大学のそれぞれの年数、スパンを超えた育成型教育が実施されてきた。公立学校でも中学校と高校や小学校と中学校の連携が増えている。このような学校と学校の連携システムとともにアドミッション専門職の方々の活躍は学校の枠を超える絆となって、全国津々浦々で「育成型」の教育実践を創っていくことになる。

 

立命館大学衣笠キャンパス

 

木村:私が入試業務に関わり始めた15年ほど前には、国立大学で高校を訪問しているところはほとんどなかった。一方で私大の職員さんは高校の先生と信頼関係を築いておられてお手本にさせてもらっていた。高校生を引き込むプレゼンテーションに長けた方も多かった。高校と大学の連携のノウハウを持つ私大の職員の方と国公立大のアドミッション教員が混じり合うことで、お互いに持っている知識を共有することができる。

 

和歌山大学

 

誰もが第一志望の大学に入学できる仕組みづくりを

小畑:近年かかわった高校に東大の推薦入試で入学を決めた生徒がいた。東大合格者3000人のうちたった60人程の超難関を突破、しかも多様な資質・能力と意欲あるトップ生だった。京大の「特色入試」などもある。この様な日本の新しいタイプのエリートを発掘し育成につなげることもアドミッション専門職のミッションと言える。勿論、アドミッション専門職の役割はもっと広く多様だと思うが・・・。

 

木村:本当に学びたい学生を、最適な大学や大学教員へつなげることがアドミッションオフィサーの役割と考えている。トップエリート育成も含めて全ての学生が第一志望の大学に入学することをサポートしたい。もちろん第一志望ではない大学に入学しなければならない場合もあるだろう。それなら、入学した大学で多いに学び、成長することで第一志望にしてもらえばいい。アドミッションオフィサーとしてそのお手伝いをしたい。
小畑:地方出身の学生が夏休みに地元に帰った際、母校を訪問して大学と自分の大学生活を伝えてもらう“しくみ”をつくった。これは、学生募集に効果的だったが、本人の大学への帰属意識、「母校愛」の醸成につながったと思う。入学前教育や入学時のオリエンテーションの時に在校生が「不安いっぱい」の新入生をサポートする役割を持ってもらうことも学生の成長につながる。この「ピアエデュケーション」でもアドミッション専門職の先生方は重要な役割を果たしておられる。優秀な学生に入学してもらいたいのは確かだが、入学してくれた学生をみんなで真の大学生へと育成していくことも大事だ。

 

良い入試、新しい入試とは

小畑:今、向きあっている高校生・受験生・大学生は、「人生100年時代」を生き「22世紀を見る世代」だと言われる。しかも、予測不可能とまで表現される変化が激しい時代、受験生が一生を通じて「この学校に進学してよかった」と思える大学を選ぶことは簡単ではない。入試は一通過点ではあるが、人生の重要なターニングポイントになりうる。

 大学入試には選抜機能とともに大学の「入口」としての接続機能がある。これまで、なかなか手をつけることができなかったのが、この接続であり、その専門職が生まれ、育つことで大学入試が大きく変わる。入試を生徒・受験生・学生目線で多面的に考え、大学の教育改革につなげる。それができる人材が日本中の大学で活躍するようになれば、入試のみならず大学教育の質を上げることになる。
木村:入試という短いスパンではなく、それぞれの生徒さんに合った大学に入学してもらい、質の高い教育を受けてもらえるようにしたい。だから受験生の声を大学に伝え、反対に大学の情報をわかりやすく受験生に伝える努力も重要だ。アドミッションオフィサーと話すことで、行きたい大学のイメージがクリアになり、勉強へのモチベーションも高まるかもしれない。この大学に入ってよかった!と思ってもらえるようになるのが理想。そのための組織的・本格的な研鑽がこれから始まる。今後、大学アドミッション専門職協会の教職員を入試説明会などで見かけることがあれば、是非声をかけて積極的に活用してもらいたい。

 

⼤学アドミッション専⾨職協会とは

ビジョン-vision-

すべての⼤学に⼤学アドミッション専⾨職を配置する

大学アドミッションに関する職能を確立し、大学および高等学校の発展に寄する大学アドミッションの価値創造を行う大学アドミッション専門職をすべての大学に配置する。

ミッション-mission-

a. ⾼校⽣の⼤学移⾏定着を⽀援する専⾨職を養成する
大学に入学し、充実した大学生生活をおくる学生を一人でも増やすことを目的として、大学アドミッションの職務を遂行できる専門職を養成する。

b. 多領域に及ぶ専⾨性を互いに補い合い⼀定の職務レベルを保った専⾨職を養成する
大学アドミッションに関する専門領域は多岐に及び、個々でその専門性を全てカバーすることが難しい。そのため、協会が構築するネットワークの中で、互いに専門性を補い合い、大学アドミッションの職務を遂行できる専門職を養成する。

c. 実務につながる研究知を持った専⾨職を養成する
大学アドミッションの研究知を通して、基礎素養を身につけ、専門スキルを修得し、実務につなげることのできる専門職を養成する。

バリュー-value-

⼤学アドミッション専⾨職として、⾼⼤ 接続システムを創出するための以下の3つの職能を重視する。

a. コーチング・コミュニケーターとしての職能
高校生の知的好奇心や進学意欲を適切に喚起することができ、高校生および高校教員、保護者に対して大学に進学する意味を伝えることができる。

b. アカデミック・コミュニケーターとしての職能
複雑に進化する大学の先端諸学問の情報を収集し、大学で学問する魅力について、高校生の興味関心、発達段階に対応する形で適切に解説を加えることができる。

c. テスティング・コミュニケーターとしての職能
大学アドミッションの国内外の動向を深く理解し、各大学の立ち位置に応じた大学アドミッションを提案・実施できる。

 

 

一般社団法人 大学アドミッション専門職協会理事長

九州大学准教授 木村 拓也 先生

九州大学大学院 人間環境学研究院 教育社会計画学講座(教育学部) 教育学部准教授。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。博士(教育学)東北大学。京都大学助教、長崎大学助教・准教授、九州大学准教授を経て2016年8月から現職。専門は教育社会学。独立行政法人 大学入試センター客員教授。日本教育社会学会理事。岡山高等学校出身。

 

 

公益財団法人日本漢字能力検定協会普及部参与 元和歌山大学副学長
元立命館大学入試部長

小畑 力人 先生

立命館大学経済学部卒業、関西文理学院(予備校)進学指導部長、立命館大学入試部長、和歌山大学観光学部教授、同副学長、追手門学院大学社会学部長、神戸山手大学社会学部観光学科教授、大阪観光大学客員教授、日本観光ホスピタリティ教育学会会長、大阪初芝学園常務理事、大阪経済法律学園評議員、立命館大学校友会顧問等歴任。大阪府立清水谷高等学校出身。

 

大学アドミッション専門職協会
https://www.jacuap.org/annai

日本漢字能力検定協会
https://www.kanken.or.jp/kanken/contact/

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大学は「開かれた学び(オープンエデュケーション)」の場へ

多様で変化の激しい現代社会は、数々の複雑な課題に直面しています。そうした課題解決のためには、複数領域の専門知識を持ち、高い視座に立って柔軟に対応できる人材が不可欠です。 和歌山大学は、これからの大学が「開かれた学び」の場となることが必要と考え、未来を見据えて[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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