そもそも情報とは?

このような研究をふまえるならば、「情報」という概念がコンピュータをはじめとする情報技術の枠内でしか扱われないのだとすると、せっかくの新しい高校の教科「情報」はその十分な役割を果たせないのではないか。
誤解のないように断っておくが、私は情報技術の科学的理解に関する教育が不要だなどと言っているのでは全くない。むしろ、そういった教育は大変重要だと考えている。
私は約20年前に工学部の情報学科を卒業し、大学院では情報学の学位を取得した。こういった情報科学教育の社会的な意義について十分に理解しているつもりである。しかし、いやだからこそ、この「情報=コンピュータ」と安直に考えてしまう世の中の風潮に強く「待った」をかけたいと思うのである。教科「情報」で教えるべきことは情報技術だけではない。
前述の西垣通氏は、著書『新 基礎情報学』の中で次のように述べている。「『“情報” イコール “コンピュータ”』という狭い公式から急速に脱し、情報という概念を、『情報/コミュニケーション/メディア』という人間の心理的/社会的な関係のなかで、深くとらえ直さなくてはならない」と。
重要なので繰り返すが、プログラミングやコンピュータを扱うだけが情報教育ではないのである。もちろんPythonやJavaScriptなどを学ぶことも必要である。しかしながら、人工知能やIoT、ビッグデータが急速に普及・発展していくこれからの情報社会を生きていく私たちは、なにより「基礎情報学」を背景とする「情報とは何か」について、まずはきちんと学ぶことが必要である。

(下記に参考文献を挙げる。「基礎情報学」の入門書は、『生命と機械をつなぐ知』。他に多くの読みやすい新書も出ている。)

参考文献
西垣通著『基礎情報学』NTT出版、2004
西垣通著『続 基礎情報学』NTT出版、2008
西垣通著『生命と機械をつなぐ知』高陵社書店、2012
【★最もオススメの入門書】
西垣通監修、中島聡編著『生命と機械をつなぐ授業』高陵社書店、2012
西垣通著『新 基礎情報学』NTT出版、2021
「情報とは何か」を扱う授業実践の報告は以下。
https://www.wakuwaku-catch.net/jirei1896/

筆者の論文は以下を参照。
◦藤岡健史、大西洋: 「情報一般の原理」を学ぶ情報教育カリキュラムの開発と評価―日本学術会議の参照基準に基づいた高校情報科の刷新に向けて―、 日本情報科教育学会第9回全国大会講演論文集、 3-B-2、2016.
◦藤岡健史、大西洋: 専門科目「情報学基礎」における文理融合型情報教育の実践と評価、 日本情報科教育学会第10回全国大会講演論文集、 1-A-3、2017.◦藤岡健史、中村央志、大西洋: 3年目を迎えた専門科目「情報学基礎」――次期指導要領における「情報Ⅰ」を見据えたプログラム開発、 全国高等学校情報教育研究会第11回全国大会(秋田大会)、 August 9-10、2018.

京都市立堀川高等学校情報科教諭 京都大学非常勤講師 藤岡 健史
P r o f i l e
京都大学工学部情報学科卒業、京都大学大学院情報学研究科修士課程修了、京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了、博士(情報学)京都市立堀川高等学校教諭、京都市立塔南高等学校教諭、京都市立西京高等学校教諭を経て、2019年から京都市立堀川高等学校情報科・数学科教諭(情報科主任/教育研究・研修指導員)、京都大学非常勤講師、大阪府立茨木高等学校出身。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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